始業を遅らせてみたら成績が向上


勉強を熱心にしている子の姿を見ると、親としては安心するかもしれません。ですが、子どもの脳のことを考えると、勉強に注力するあまりに休息と睡眠が不足してしまうことはよろしくありません。将来的には子どもの脳の成長を阻害し、脳が充分に育たない遠因となってしまう可能性があるのです。
10代の子どものクロノタイプ(睡眠のリズム)は大人と比べると後ろ側にずれています。
これは、メラトニンの分泌が大人よりも2時間遅いためです。

 

メラトニンは人間の体内で合成され、睡眠を誘導するホルモン。分泌が遅いだけでなく、子どもの体では分解も遅いのです。10代の子どもが朝なかなか起きられないのはそのためです。子どもの脳ではずっと睡眠を誘導するホルモンが残り続けてしまっているからです。

そんな状態で子どもを早起きさせてしまうと、子どもの脳は睡眠不足になってしまいます。睡眠時間そのものも、子どもは大人よりもずっと多く必要とします。大人の脳に適した睡眠時間は7〜8時間と見積もられていますが、アメリカ疾病対策予防センターは、10代の子に必要な睡眠時間は8時間半から9時間半だと推奨しています。

子どもが朝起きられず、昼もうとうとして、夜に活動的になるのは仕方のないことなのです。安易に大人の感覚や生活習慣に合わせようとして、子どもの脳が発達する機会を奪ってしまってはいけません。

実際に、アメリカではミネソタ州やケンタッキー州で高校の始業時刻を1時間程度遅らせたところ、生徒の成績が有意に上がったという興味深いデータが得られています。
また、生徒のうつ病の罹患率も低下したといいます。さらに、試験の開始時刻を2時間遅らせて午前10時開始とした高校では、平均点が向上するという効果が見られました。
放課後の課外活動に影響があるのでは、という批判に応じるため、運動選手の競技成績についても調べたところ、こちらもかえって向上していたということがわかりました。
始業を遅らせると困るのは、子どもではなく教師や親ではないのか、という考察がされています。

この一文が、ただでさえストレスに弱い未成熟な子どもたちの脳の助けに、少しでもなることを願っています。そして、その適切な発達を誘導する一助になればと思います。

 

 

 

『空気を読む脳』
著者:中野信子(講談社+α新書/860円+税)


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構成/小泉なつみ

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