写真集という名のパンドラの箱は、希望しか入っていなかった


それからと言うもの、すっかり若手俳優沼に沈没。新しい作品にふれるたびに推しが増え続け、今では推したい俳優が多すぎて、僕かかつての夕張市かっていうぐらい財政が破綻してる。本当にヤベえのは、リーマンショックでもコロナショックでもなく、推しだった。すごい当たり前のこと言うんですけど、お金って使ったらなくなるんですね……(クレジットカードの明細書を見ながら)。


それでも、不幸せなどと思ったことは一度もありません。推しの出演情報が出るたびに祝福の舞を踊り、どんなに疲れた日でも推しのお芝居を観れば一発でHPが全回復する。うちの推しは何なの? 白魔道士なの? 「1日1個のりんごで医者いらず」なんて古い言葉がありましたが、まじで推しさえいれば医者いらず。バファリンの半分は推しでできていた。
※HP=ヒットポイントの略で、おもにテレビゲームで使われる「体力の残有量」のこと。

さらに恐ろしいことに、気づけば推しの舞台やドラマを観ているだけでは飽き足らず、しまいには写真集にも手を出すように。

いや、ダメだとはわかっていたんです。男の僕が若手俳優の写真集を本棚に陳列しているなんて、万が一僕が犯罪でも犯そうものなら、間違いなく「なお、容疑者は多数の男性写真集を所持していた模様」って報道される。推しに迷惑をかけないことが、オタクの鉄則。そう固く言い聞かせ、本屋に並ぶ推しの表紙を心の有刺鉄線でグルグル巻きにしていました。

が、ある日、あんまりにも落ちこむことがあって、居ても立てもいられず推しの写真集をAmazonでポチ。うっかりパンドラの箱を開ける日がやってきました。

 

ちょっと磯野くん〜、その玉手箱は開けちゃダメって乙姫様に言われたでしょ〜って心の中の花沢さんが口を酸っぱくしてくるのですが、開けてしまったものはもうしょうがない。しかもその玉手箱、開けてもおじいさんになるどころか、見れば見るほど細胞が活性化して、お肌もツヤツヤ若返り。パンドラの箱には、希望しか入っていなかった。

 

ホテルのベッドで横たわりーの(だいたい上裸)、砂浜で寝転がりーの(だいたいシャツのボタンが3つぐらい開いてる)、現地のホットスナックをむしゃぶりつきーの(推しがモノを食べている姿ってなんであんなに可愛いんでしょう)。どれもこれもベタの極みなんだけど、徹頭徹尾ベタを貫いてくれた推しの心意気に二礼二拍手一礼して、こちらもとことんベタにキャーキャー言いまくる。それが、推しの写真集。世界でいちばん幸せなプロレスです。

何よりこうして推しが愛しいという話をオープンにすることで、同じように推しを愛する人たちと歓びを分かち合えるのが楽しい。よくよく考えなくても、どこの誰ともわからない男性が同性の俳優を愛でているのなんて奇っ怪でしかないはずなのですが、推しを愛する者同士の優しさはマザーテレサより深かった。今までずっと人様に笑われないように我慢していたのですが、おかげさまで胸を張って推しが好きだと言えるように。以来、明らかに人生が楽しくなりました。好きなものをただ好きと叫べるのって、こんなに幸せなことなんですね。

きっとこれだけ今、オタク的な生き方に共感が集まるのも、好きなものに心置きなく夢中になれるその潔さに、自由と眩しさを感じるから。

このコラムでは、そんな若手俳優オタクと化した私の日常をこまごまと綴っていきたいと思います。読んだ人が、なんだか楽しくなれるコラムになるといいな。

それでは、どうか今日もみなさんと、みなさんの推しが幸せいっぱいでありますように。


「推しが好きだと叫びたい」連載一覧
第1回:あの日“推し”に出逢って、僕の人生は変わった
第2回:荒みがちな心を癒すのは“推しのいる生活”
第3回:ドラマ『恋つづ』から考える、推しのラブシーン問題
第4回:自粛生活では新たな推し=生きる燃料。朝ドラ俳優・窪田正孝の底知れぬ魅力
第5回:こじらせてると解ってる、でも言いたい「推しに認知されたくないオタク」の本音
第6回:「推しの顔が好きすぎて語彙力死ぬ」問題をライターの僕が本気で考えてみた【ライター横川良明】
第7回:やっぱり顔が好き!顔から推しに堕ちたオタクを待つさらなる落とし穴【ライター横川良明】
第8回:SNSで話題の史上最強沼・タイBLドラマ『2gether』の素晴らしさを語らせてくれ
第9回:ナイナイ岡村の炎上騒動から考える「長く愛される推し」に必要なモノ2つ
第10回:転機は高橋一生だった。推しの肌色面積問題、着てる方が好きなオタクの意見
第11回:オタクの心の浄化槽。男子の“わちゃわちゃ”が今の時代に求められる理由
第12回:推しが好きだと叫んだら、生きるのがラクになった僕の話

 
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