マスクはソーシャル・ディスタンスの代わりにはならない


一方で、マスクのマイナス面についても目を向けることが重要です。

まず社会的には、医療従事者が必要としている使い捨てのサージカルマスクを皆が消費してしまえば、本当に必要なところに確保できなくなってしまうという大きな損失があります。だからこその布マスクなのです。皆が布マスクを再利用し続けることで、このマイナス面はプラスに転じます。

個人レベルで言えば、マスクが目を隠さないこともマイナス面かもしれません。せっかく鼻や口をマスクで覆っていても、汚染された手で目を擦っていたら台無しです。

また、何よりマスクが与える「偽物の安心感」は危険です。マスクをしているから大丈夫といって、手洗いを怠る。マスクをしているからと安心して不要な集会をする。このような行動が増えれば、マスクはむしろマイナスに働く可能性があります。知らず知らずの間に感染をした人と立ち話をしている間に、マスクの網目の間から、マスクの隙間から、ウイルスはいくらでも侵入できてしまうのです。

実際に、マスクの推奨を変えたCDCも「マスクはソーシャル・ディスタンスの代わりにはならない」と注意を呼びかけています。

最後に、使用中または使用後のマスクは汚染されているということへも注意を払う必要があります。感染者がマスクをした場合、マスクの前面はウイルスで汚染されていることが実際に観察されています。マスクの前面を触った手で何か別のものに触れたり、使用したマスクを机の上に放っておいたりすれば、マスクが媒介して感染機会を作ることにつながります。

これらが考えられるマイナス面ですが、逆に言えば、これらのことに十分注意を払った上で適切にマスクを使用すれば、マスクの有効性は高まるかもしれません。

 


「マスクがあれば、『三密』も大丈夫」ではない


これまで見てきたように、マスクには良い面と悪い面の両方があります。マスクがあれば「三密も大丈夫」ではないのです。自宅にいることこそが、より有効な感染予防になりますし、外出中はマスクを着けていても、同じようにソーシャル・ディスタンスが必要なのです。

また、繰り返しになりますが、あなたの布マスクは、うつ「る」ことを防ぐものではなく、うつ「す」ことを防ぐためのものです。布マスクを着けることは人への優しさを示すことです。

紙のマスクではなく布マスクを手に取ることは、供給が滞った紙のマスクを医療機関や高齢者施設に確保する、そういった側面から優しさを示すことにもつながります。

あなたの示すそのような優しさが、人を感染から守り、医療者や患者さんを守ることにつながっています。

「なぜ望んでもいない布マスクが送られてきたのか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、明日からは、そんな思いで布マスクを着けてみませんか。その思いはきっと、どこかで誰かを助けることにつながっているはずです。


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参考文献
1.    Desai AN, Aronoff DM. Masks and Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). JAMA. Published online April 17, 2020. 

2.    Brainard JS, Jones N, Lake I, Hooper L, Hunter P. Facemasks and similar barriers to prevent respiratory illness such as COVID-19: A rapid systematic review. medRxiv [Internet] 2020;2020.04.01.20049528. 

3.    Bae S, Kim M, Kim JY, et al. Effectiveness of Surgical and Cotton Masks in Blocking SARS–CoV-2: A Controlled Comparison in 4 Patients. Ann Intern Med. 2020; [Epub ahead of print 6 April 2020].

 

イラスト/杏乙

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