収束に向かう、3つのシナリオ
さて、ここからは肝心の「いつどう収束するか」に触れていきます。
未来予測については、いくつかの論文がすでに報告されていますが、ここでは米国ミネソタ大学のCenter for Infectious Disease Research and Policy(CIDRAP)が報告した論考をご紹介します。
まず前提として、このCIDRAPのレポートでは、過去のインフルエンザのパンデミック(世界的な大流行)を参考にしています。本来は似たものどうしのSARSやMERSといったコロナウイルスの経験を参考にしたいところですが、感染拡大の規模が違うので、あまり役に立ちません。
一方、過去のインフルエンザのパンデミックとは、ウイルスの特徴という点では異なるものの、以下のような似通った点もあります。
一つは、パンデミックインフルエンザが今回の新型コロナウイルスと同様、当時、人に全く免疫がない新たな病原体であったこと、そして世界中の人に感染が広がる可能性を持ち、実際に何十万、何百万という数の方に瞬く間に感染が広がったという点です。
もう一つは、感染が、飛沫感染という経路を主体に広がる点、無症状者からも感染が広がる点も共通しています。
こういった共通点から、少なくともパンデミックの収束の仕方という点で、過去のインフルエンザの経験を参考にすることができます。
その上で、考えられる未来として3パターンほどありうるのではないかと予測されています。
シナリオ1/今より遥かに大きな感染流行の波がくる
まずは最も厳しいシナリオからご紹介します。これは、「最悪のシナリオを想定しておくべき」という意味では最も重要で、頭に入れておくべき大切なシナリオとも言えます。
そのシナリオは、一旦今夏に少し落ち着きを取り戻し、今秋から冬にかけて、今よりも遥かに大きな感染流行の波が来るというシナリオです。抗体検査の広がりを受けて、世界各地で「感染が人口の20%まで広がっている可能性がある」といった報道が見られますが、大きな数字でも高々20%です。先の「集団免疫」のところでご紹介した70%と比較をすれば、まだ人口の半数以上に感染が広がらなければ、感染流行が終わることはないということを予測させます。
特に夏から秋に移り変わり、寒さが増してくると、人が室内で密集しやすくなる、寒さによって環境中のウイルスの減衰速度が遅くなるなどの変化もあいまって、秋になってから再度の感染流行が始まり、油断をしていると人口の半数程度にまで広がる、現在の規模の2倍を超えるような感染流行が起こりえてしまうのです。
また、秋から冬にかけては、インフルエンザの流行も生じることが想定され、重複感染なども問題になるかもしれません。人は油断する生き物ですから、今回の経験で気を緩めてしまうとこのような状況が起こることも十分にありえるのです。
考えたくもないストーリーですが、このようなシナリオは実際に、1918年のスペインかぜや1957-58年のパンデミックインフルエンザでも生じています。スペインかぜではまさに、3月に第一波が訪れ、夏に一旦おさまり、秋に一気に感染爆発が起こったことが報告されています。このパターンはまだ記憶に新しい2009-10年の「新型」インフルエンザでも見られ、この時にも春に第一波、秋により大きな第二波となりました。
これらのインフルエンザのパンデミックでは、第二波のあとは、小さな波が数年繰り返されるにとどまり、やがて季節性の感染症になっていっています。大きな第二波によって、先の「集団免疫」が完成するからです。
このシナリオを辿ってしまった場合には、今年の秋から冬は、今よりも長く厳しい「緊急事態宣言」が必要になることが予想されます。しかし、それ以降の外出自粛は必要なくなるのかもしれません。
シナリオ2/現在と同じか小さな波が、2年ほど繰り返される
次のシナリオは、現在と同じか少し小さな波が2年ほどにわたり繰り返されるパターンです。例えば、人口の10-15%程度の方にまで広がるような感染流行があと3から4回ほど起こるイメージです。この波の出方やタイミングは、地域によりズレが生じるものと思います。
このシナリオの場合、波の大きさによって、2年ほどは、繰り返し外出自粛が途切れ途切れで必要になるでしょう。その後は、「集団免疫」がある程度働き、なだらかになっていくというシナリオです。このようなシナリオは、先にご紹介した以外のパンデミックインフルエンザで見られたシナリオであり、これもまた現実的なものかもしれません。
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