お久しぶりです。京都で「京繍」という刺繍をしております長艸 歩と申します。
大変な状況の中、お家でどのように過ごされていますでしょうか。(お仕事に出かけられている方々、今日もありがとうございます)
「コロナ」という単語を聞くだけでしんどいこの数ヶ月、私はただただ刺繍していました。

そして小さな発見をしました。

刺繍しているとき、目の前の針の上げ下げだけに集中します。とくに同じ技法を繰り返していると、だんだん何も考えずに体が動くような……視覚と触覚だけが研ぎ澄まされて……すこし瞑想に近い状態になってきます。
没入感とでも言いましょうか、静かに気持ち良くなっていくのです。

あれ?
私もしかしてこの「没入感」でいつもリフレッシュ出来ているのでは?誰しもが何らかの不安と付き合っている今、この感覚は多くの方のお役にも立てるんじゃないか?と考えました。

そしてこの「没入感」、お子さんにもぜひ体感してほしいのです。昨今のお菓子作りブームにも通ずるのですが、考えて手を動かし目に見える成果物ができることで小さな達成感も得られます。おうち時間のレクリエーションとして家族でプレゼントしあってもいいですね。今回ご紹介する刺繍は30分〜1時間程度で出来る簡単なものばかり。ぜひお試しください。


さて本題に。
私が今回ご提案するのは日本の伝統的な「背守り」を繍うことです。

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、「背守り」は子どもの魔除けの刺繍です。

 

直線の連続で構成、シンプルで簡単。というところが「没入感」を得やすいポイントです。
そして奇しくも、ウイルスという魔が世界を覆い尽くしている今、自分や身近な人を思って繍うことで、すこしでも心の平穏に繋がるのではないかと考えました。

文様が繍い込まれた昭和期の産着。この画像のように付け紐に繍うものは「飾り紐」とも呼ばれます。

背守りの発祥についてすこしだけ触れると、その昔「魔は背中から入り込む」、着物の背中の縫い目が「目」のように魔が入り込まないように見張ってくれている。と信じられていました。しかし赤ちゃんの着物には背中の縫い目がありません。そこで魔除けとして襟首の下あたりに刺繍で縫い目を入れる「背守り」が生まれ、縫い目から発展して様々な願いを込めた文様も生まれました。

今回ご紹介する文様は3つ。


「麻の葉文様」

成長がとても早い麻の葉には「子の健やかな成長」を願う意味がこめられています。


「蝶文様」

青虫からサナギ、蝶へと何度も姿をかえることから「不老不死」そして「長生き」の象徴です。


「雪文様」

雪は豊年を表します。様々な産業が打撃を受けていますが命の源となる作物は豊作となりますように。


くわしい作り方はこちらの動画をご覧ください。

それぞれの図案の型紙はこちらのページでダウンロードすることができます。(真似して手書きするのでも十分です)

「いやいや刺繍糸も刺繍針も刺繍枠も家にないよ〜」「買いに行きたくてもいけない〜」って方もご安心ください。携帯用ソーイングセットの針と糸でも十分楽しめます。もしも100円ショップに行く用事がありましたら刺繍糸も手に入ります。繍うものはお家にあるハンカチでもTシャツでも。(マスクでもいいかも?)

そして刺繍枠は……なくてO K!

型紙の「紙ごと繍う」という裏ワザをおすすめしています。

(背守りにはおすすめですが全ての刺繍に有用なワザではありません。ご了承ください。)


古来より刺繍は「ポジティブな祈り」を込めて繍うものでした。こんな時だからこそ誰かの幸せを願って、そしてご自身の心の健康を保つために。家にある針と糸を手にとっていただければ、刺繍に携わるものとして嬉しいことこの上ありません。