新型コロナウイルスによるロックダウンや外出自粛により、世界中で家庭内暴力の増加が問題となっています。完全な終息には最低1年かかるともいわれるなか、決して他人事ではいられないDV問題について、心理カウンセラーの根本裕幸さんにお話を伺いました。悲しい事態が起こらないよう、また起きてしまった時に被害を最小限に防ぐためにも、DVが起こる構造と、初動の対策について知っておきましょう。

 


心の距離が近いほどDVの対象になりやすい


新型コロナウイルスを引き金とした家庭内暴力(DV)、その構造は一体どのようなものなのでしょう。自粛生活のストレスが爆発しただけなのか、それとも、その人にDVをする素質のようなものがあったからなのでしょうか?

「他者への攻撃性というのは、もともと誰もが持っているものです。普段大人しいのにお酒を飲むと人が変わってしまう、という人がいますが、それと同じで、今まで隠れていたものがこのコロナ禍によって引き出されただけ、ということです。

もちろんその出方は、人によって違います。ストレスが強い環境にいると当然、攻撃性はより出やすくなりますが、今回のような場合、ずっと家にいるという生活が苦でない人とそうでない人でも大きく違うでしょう。また、一般的には女性のほうが環境適応能力が高いと言われています。ですから今回のコロナ禍では、どちらかというと男性のほうがより強くストレスを感じているのではないかと思います」

そして、そのストレスのはけ口とされやすいのが、やはり家族です。

「DVというのは、心理的距離の近い相手に対するほど働きやすいもの。例えばDVの一つに子供への虐待がありますが、子供が小さくて父親になついている時期のほうが虐待も起こりやすいんです。逆に思春期などで子供がなつかない時期だと、心理的距離がより近い奥さんに出やすくなります。よくDVをしてしまった人に対して『外ではいい人だった』と語られるのは、それだけDVと心理的距離が密接な関係にあるということです」


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DVは一度では終わらず、必ず繰り返す


DVがストレスから起こるものなのであれば、今増えているDV被害も、外出自粛要請が解かれるなどすれば自然に減っていくものなのでしょうか?

「外出する機会が増えれば相対的に数は減ると思いますが、一度DVが起きてしまった家庭では、繰り返される可能性が高いです。なぜかというと、それはDVが起こる仕組みにあります。DVは分かりやすくいうと、ストレスというガスでいっぱいになった風船を、無理に押さえつけて最終的に破裂させてしまった、というような状態なんですね。つまりDVを繰り返さないために必要なのは、中に溜まったガスを定期的に抜くことなんです。しかしDVはタチの悪いことに、爆発した後、とんでもないことをしたという罪悪感が残る。それゆえ過剰な自制心が働き、再びストレスというガスが溜まり始めてしまうのです」

DVに関する話でよく聞くのが、暴力をふるった人がその後、いつも以上に優しくなるということ。それゆえ暴力をふるわれた当人も「私も悪かった」などと許してしまうようですが、それこそがDVをエスカレートさせてしまう原因なのだそう。

「DVの加害者は普段は優しくて大人しい人が多いのですが、それだけに『自分は何てことをしてしまったんだ!』と強く反省します。そして二度と暴力をふるうまいと、今まで以上に我慢をする。すると風船は、前にも増して大きく膨らんでいきます。当然、爆発レベルも前回より大きくなる。DVというのはこれの繰り返しで、一度起こると止むことはないどころか、どんどんエスカレートしていくのです。そうしてだんだん本人もわけが分からなくなってしまい、その結果起こるのが『悪いのは俺じゃなくてお前だ』という正当化。よく虐待で捕まった親が『あれはしつけだった』と釈明するのを聞きますが、これこそDVにおける典型的な正当化、“罪悪感のすり替え”ですね」

 
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