離婚を真剣に考える時、特に子どもがいる女性の頭を悩ませるのは、「自分の収入だけで生活していけるのか?」ということではないでしょうか。実際の数字からは、母子世帯の労働は過酷であることが読み取れます。

「労働政策研究・研修機構の『子育て世帯全国調査』(2018年)によれば、ふたり親世帯の母親の週平均就業時間は28.95時間であるのに対して、ひとり親世帯の母親は36.39時間と長い。そして、週40時間以上がふたり親では32.2%であるのに対して、ひとり親では53%と圧倒的に多い」

 

2016年における母子世帯の就業率は81.8%と高く、ダブルワークやトリプルワークを行う母親も少なくないと調査結果は伝えます。しかし、暮らしぶりには厳しい現実がつきまとっています。

「誰かと住んでいればいいのかもしれないが、母子世帯の多くは同居者がいない母子のみの家庭である。その場合、母子の世帯における母親の平均年間収入は243万円と相当低い。高い就業率・長い就業時間にもかかわらず、1馬力にも満たない状況は“働けど働けど我が暮らし楽にならず”ではないだろうか」

 

母子世帯が苦境に立たされてしまうのは、調査によると以下の3つ理由が挙げられるといいます。

・第一の理由は男女間の経済水準の違いである。

・第二の理由は、ひとり親世帯の親に低学歴者が多く、そのため、不安定な非正規労働の仕事に就く者が多い。非正規労働者の賃金が低いため長時間にわたって労働しても、収入が高くならない。

・第三の理由は、子育てに時間も金銭も大きなコストがかかることである。ひとり親は賃金労働と家事(育児)労働を天秤にかけなくてはならない。さまざまな制約条件によって身動きの取れないひとり親世帯に問題が凝縮し、表れているのである。

平均年収243万円は、母親が子どもと共に生きるうえで決して潤沢といえる数字ではありません。私たちの普段の生活の中でこうした生々しい実像に触れる機会は、決して多くはないはずです。

「離婚後に母子家庭が貧困に陥るのは女性だから起こりうる問題なのではなく、賃金の低い仕事で働く、子どもをもつ方に凝縮されているのであって、我が国の労働市場構造の問題に起因している。日本の母子世帯は働いているのに貧困なのである

離婚という人生の難題と対峙するためには、持っておくべき知恵は多いに越したことはありません。仕事に家庭にと全力を尽くし、今の幸せを噛み締めている女性、そして男性も、パートナーに感謝するためのツールと捉え、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。
 

 

『離婚の経済学 愛と別れの論理』

著者:橘木俊詔・迫田さやか(講談社/税込990円)

統計・調査を多角的に分析することで、現代社会における夫婦のリアルを浮き彫りに。女性・男性問わず、客観的な視点から「離婚」の知識を深めることができる一冊です。

 


構成/金澤英恵
(この記事は2020年5月24日に掲載されたものです)