ワクチンの意味は、防災訓練

 

一方、後者の場合には、多くの方に導入を考えなければいけないので、より安全な方法でなくてはいけません。例えば「手指消毒」なら、非常に安全で簡単なので、仮に予防効果が小さくても、広く行っていただきやすいことがお分かりいただけると思います。逆に、むやみやたらに、多くの方にリスクのある薬を飲ませてしまうと、副作用ばかりが問題になり、元も子もないという状況が起こりえます。

このような目的で活躍する可能性が高い選択肢は、ワクチンです。このワクチンの従来までの考え方は、弱毒化・無毒化した病原体を投与したり、病原体の殻の一部を投与したりするというものでした。

これにより、体の中で「防災訓練」のようなことができます。無毒化された病原体は、あくまで訓練なので被害を起こすことはなく、体の免疫を反応させ、アクションを刷り込ませることができます。このアクションの刷り込みは一定期間記憶されることが知られていて、ワクチンを打った後しばらくは、いざ本物の病原体が入ってきても、うまく記憶された免疫が応答し、発症を抑えられるのです。防災訓練をした直後には、いざ災害が来ても避難行動が迅速にできるのと似ていますよね。

現在、トップバッターで開発されているワクチンは少し仕組みが異なります。従来の弱毒化した病原体を投与するというような手法ではなく、ウイルスの遺伝子情報だけを抜き取り、これを運び屋に搭載して打ちこむというものです。これにより、投与された人の体の細胞の中で、遺伝子情報をもとにウイルスの構造の一部が作られ、ここに免疫が応答するようになります。ウイルスの構造の「レシピ」だけを与えて、人の体内で作らせる方法なのです。

これは、「RNAワクチン」と呼ばれる技術であり、世界中どこを見渡しても、いまだ現場で使われているものはありません。この新型コロナウイルスをきっかけに、初めてヴェールを脱ごうとしています。現在は少数の健康な人に投与して安全性を確認する第一相試験の途中経過が報告されたところです。

今後試験が進み、安全性や有効性が確認されれば、予防法として広く使われていくことになるでしょう。

 


BCGワクチンは有効なのか?


その他には残念ながら、今のところ有効と言えるような薬物的な予防法はありません。一時は、結核の予防に用いられているBCGワクチンが実は有効なのではないかと各報道で注目を集めましたが、これに対しても否定的な結論を導く研究結果が報告されています。これについては現在オーストラリアで試験が計画されており、続報を待つ必要があります。

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