予防薬の「副作用」

 

先の、トランプ大統領が服用しているといわれている、クロロキンの例のような薬剤投与については、そもそも暴論かもしれません。広く予防をするということになれば、もともと薬を飲む理由のない多くの方に薬を飲ませるということになるのです。薬には必ず副作用があります。例えば、クロロキン一つを例に挙げても、一定の確率で心臓の不整脈など重大な副作用を起こすリスクが知られています。

 

仮に1000人に1人の割合で感染が広がってしまう地域で、1000人に薬を予防的に投与することをイメージしてみてください。

レムデシビルという新型コロナウイルスの治療に有望とされている薬を、予防としてその1000人に投与する計画をするとしましょう。仮に、このレムデシビルに感染症の発症を100%防ぐとても優れた効果があったとすれば、1000人のうち1人の感染を防ぐことができます。一方、過去のレムデシビルの試験で、5%程度の方に比較的重大な副作用が起こったと報告されていることにも目を向けなければなりません。すなわち、1000人に投与すれば、約50名の方に重大な副作用が起こってしまうことになります。

こうなると、1人を感染症から守ることができても、50人に被害を出してしまうことになります。この方法は受け入れられないということがお分かりいただけるのではないかと思います。だからこそ、「予防薬」というのは、より安全で、より高率に発症することが予想される特定の集団に用いなければならないのです。

このように、医療は常に有益性と有害性の天秤です。有益性ばかりに目が眩んでしまうと、有害性の痛い目に合ってしまいます。臨床試験がまだ行われておらず、エビデンスが確立していない薬やワクチンを投与できないのはこのためです。有効性がなく、被害ばかり出してしまう可能性があるのです。

一方で、有害性ばかりに目が眩んでしまうと、本来受けられるはずであった恩恵を逃してしまいます。1000人中1人に残念ながら副作用が起こってしまうワクチンであっても、100人の命を救えるような有効性があれば、副作用リスクはあることに変わりはなくても、これはやはり打つべきだと多くの方が納得できるでしょう。

ここまで見てきたように、現在のところはこの天秤の大きさを測っているところであり、現時点で確立した予防薬やワクチンというのは存在しません。

だからこそ、予防には「非薬物的な」方法を考えていく必要があります。

【コロナかなと思ったら?の疑問に医師が回答】家庭や職場で体調が悪い人が出たら、どうすればいいのか?>>