14世紀版“ステイホーム本”

 

ステイホームで行動に制限があっても、心の持ち方は自分で選ぶことができます。家から出られず、心が荒んできたり、イライラしてきたら、心が洗われるような本にふれてほしいと思います。そして心が静かに落ち着いたなら、心の底から笑える話で明るく楽しく過ごしてください。

 

まず、心を静かに落ち着かせてくれる、心が洗われるような一冊です。

『道しるべ』 ダグ・ハマーショルド著 みすず書房
スウェーデンの外交官が苛烈な職務の中にありながら遺した、驚くほど静かで穏やかな日記。

この本は国際連合の第2代事務総長であったスウェーデン人、ダグ・ハマーショルドの日記です。在任中に死去した唯一の国連事務総長で、コンゴ動乱の停戦調停に赴く途中の飛行機事故で亡くなりました。動乱への対応や巨大国家間の調整など、苛烈な職務の中にありながら、驚くほど静かで穏やかな日記を残しているのです。自身の魂と向き合う日記で、どのページを開いても、清冽な泉の水を飲んだような気持ちになる一冊です。

そして、気持ちを落ち着けたあとは、心ゆくまで大笑いをしてほしいと思います。人間ですから、明るく楽しく生きましょう。明るく楽しい、人間が愛おしくなるような一冊はこちらです。

『デカメロン』 ボッカッチョ著 河出文庫
14世紀にも「ステイホーム」はありました。そしてそこで話されていることは、現代と変わらない、浮気や男女の噂話など人間味にあふれたおもしろい話。

この本は、詳細な記録が残るようになって以降、人類が直面したおそらく初めてのパンデミックであるペスト禍のフィレンツェを描いています。登場人物たちは現在の私たちと同じく、巣ごもりをしている人々。14世紀版“ステイホーム本”なのです。

ペストが蔓延した街を逃れた男女が、離れた場所にこもり、おもしろおかしい話をし続ける話。浮気や男女の噂話など人間味にあふれたおもしろさにあふれており、読むだけでおおらかな明るい気持ちになって、元気をもらえる一冊です。分冊版で三冊にわかれていますので、一冊ずつ気軽に手にとってみてください。14世紀から変わらない人間の明るさにふれてみることを、おすすめします。

今回の連載では合計7冊、おすすめの本を紹介しました。
不安に立ち向かう本、変化に備える本、そして心を豊かにする本。
新しい情報や視点、豊かな知識や思考、そしてまた、人間の愛おしさにもふれていただき、今とこれからを楽しみに過ごしてほしいという願いを込めて選びました。

僕は常々、人間を豊かにするのは「人と旅と本」だと考えています。このコロナショックのもとで、今自由に開かれているのは「本」の扉だけ。この機会に、おすすめした本のうち、どれか気になったものから読んでみてください。きっと、皆さんの力になりますよ。

最後に、繰り返しになりますが、パンデミックは必ず終わります。ワクチンや薬が開発されると、コロナはインフルエンザに変わるのです。
それまでの時間を、これからの備えの時間に充てて、いたずらに不安に煽られることなく、心きよらかに楽しく豊かな日々を、過ごしていただけたらと思います。
 

構成/大西奈緒



今回の連載で紹介いただいた、おすすめの本については、以下でご確認ください。

【出口治明(1)】知の巨人が語った、コロナ時代を生き抜く方法>>

【出口治明(2)】ライフネット生命創業者、「本当の働き方改革が始まる」>>

 
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