走るタクシー。

冷房がついていながら、少しだけ窓を左右どちらも開けている。

車窓からの風が気持ちいい。

 

「そんなもんじゃない? 私はもうそういうの、あんまりなくなったけど」

なぎさがドライに交わす。

「お。なぎちゃん、大人じゃん」
ヒロキが微笑みをたたえて話す。

「そう?」
「強がってる?」
「強がってない、強がってない。なんていうか、そういうこと、麻痺したのかな……」

「ええ~?! 私がまだウブイってこと?!」
桐子は笑いながらも切なくなって窓辺にもたれてしまう。


ヒロキとなぎさが話している。
「まあ、誰にでも大なり小なり、あるんじゃない」

「うん。ただ結婚式に関しては、あんまりそういう気持ちにならなくなったってこと」

「なんとなくわからないでもない。それより、幸せのご加護をこっちも頂いちゃお~みたいな感じにならない?」

「うっわ! なんかそれおっさん!」

「おっさん?!」

「いや、私もあるかもしれないけど! へへへ」

「なんか年? ご加護とかご利益とかさ」

「かもね」


しみじみな三人。
なぎさのショートカットが風に揺れている。なぎさが話し出す。

「いや、私の場合はさあ。手術とかもあったじゃない。親を看取ったり。だんだん人様のことはいいっていうか、自分に集中するようになったっていうかさ……」


なぎさは数年前、子宮がんがみつかり、子宮の全摘手術をしている。
仕事は舞台の運営関係をしており、劇場に勤務している。

見た目華やかななぎさだが、ふとした瞬間、桐子には、どこかなぎさの横顔が孤高の美しさのように見えることもあった。だれか特定の男人がいるようにも思えない。あえて何かを言ってしまうと崩れてしまいそうな……。それは勝手なおせっかいなのかもしれないけれど……。


桐子は話のながれを切り替えてみる。

「うっわ。結婚も諦めてないし、後輩ちゃんたちが続々と結婚してくと、いいな~って思っちゃう私って何なんだろ……しかも結婚相手が経済的にも安定してそうな人だったりすると、余計にうらやましいっていうかさ」

「なんかチユミちゃんのお相手もよさそうな感じだったもんね」

「公務員?」

「大蔵省だったっけ?」

「ヒロキング。経産省」

「そうそう」

「けど、今の時代、なにか安定かなんてわかんなくない?」


「まあ、私もがんばろっと!」
桐子は気持ちを入れなおす。
ヒロキが畳みかける。


「こないだ、いい男いたって言ってたじゃない」

「ああ、あれ? あれは、ただ単にそういう人が存在したっていうだけで、付き合ってもいなけりゃ、その後なんにもならなかったもん……」

「桐子は最近、独身の男の人っていうだけで、『結婚』を勝手に意識しちゃって、うまく話したりできなくなっちゃうらしいよ、フフフ」

「なんか乙女チックよ、それ」

「ただアホなだけでしょ~? いい男人いないかな~」


窓に再びもたれる桐子。
なぎさがおもむろに切り出す。

「ヒロキングは?」

「ええ~!?」