新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの暮らしや働き方だけでなく、人生についての意識も変えてしまいました。これまでの“当たり前”は通用しない、コロナ後の社会がどうなるのか不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。

人口減少と少子高齢化の日本を分析した『未来の年表』シリーズの著者として知られ、5月末に『「2020」後 新しい日本の話をしよう』を上梓した河合雅司さんに私たちに迫っている未来について、3回にわたって伺いました。


第二回のテーマは「人口減少によって訪れる未来」です。

第一回「女性の働き方の未来」はこちら>>

 


「24時間社会」は働き手がたくさんいた時代の話

 

「河合さん、日本の人口が減る一方だというのはわかりましたが、そうすると、どんなことで困るんでしょうか?」
よく、そんなふうに聞かれます。未来を悲観して嘆いてばかりいても仕方がありませんが、現実問題として何が起きるのかを知っておくことは大切です。そこで、私たちの暮らしのなかで具体的にどんな影響が表れてくるのかを見ていきましょう。


このまま少子化が進み、人口が減るといちばん困ること、それは「労働力人口=働き手」の減少です。合計特殊出生率の水準が今のままだとすると、2060年には労働力人口がほぼ半減するという推計があります。
そうなれば、今は当たり前だと思っている日常のさまざまなサービスが受けられなくなる可能性も出てきます。すでに、コンビニやファミレスで24時間営業をやめるところが出てきたり、宅配便のドライバー不足が問題になっていますよね。店は24時間いつでも開いていて、ネットで注文したものは必ず翌日には届く……それはもはや当たり前ではないのです。すべては働き手がたくさんいる前提で成り立っていたサービスだったということです。


AIや自動運転技術では解決できない!?

便利な世界が“人の手”をもとに成立していたのなら、今後は新しい技術でそれを補っていけばいいのでは? と思うかもしれません。AI、ドローン、自動運転といったテクノロジーの活用はもちろん欠かせないものです。ただ、残念ながらそれらが働き手不足を解消するための決め手にはならないのです。

想像してみましょう。ひとり暮らしの高齢女性が冷蔵庫などの大型家電をネットで注文したとします。すぐさま自動運転のトラックがマンションの下まで冷蔵庫を運んでくる。では、その冷蔵庫を部屋のなかに運んで設置し、古い冷蔵庫を回収する作業は誰がやるのか? やはり人の手が必要だとわかりますよね。

 

どんなに技術が進化しても、労働力人口が減ることは「便利の終わり」につながります。長時間労働を前提とした便利すぎる社会を維持しようとするよりも、多少の不便も受け入れられるように、私たちの意識を変える必要があるでしょう。


町から店やサービス機関が消えていく


もちろん、働き手だけではなく消費者も減っていきます。
すでに人口の少ない地域では、日常の買い物をできる店がなくなってしまい、高齢者を中心に「買い物難民」となる人が続出して問題になっています。

どんな店やサービスも、ある程度の人口規模がないと成り立ちません。たとえば、ハンバーガーショップを経営するには2万7500人の人口規模が最低ラインとされます。さらに人口が6500人を下回ると銀行、7500人を下回ると病院といったサービスも撤退してしまう可能性が。これは過疎地にかぎらず、大都市を除く日本のあらゆる地域で起こりつつあること。お金を払ってサービスを受けようにも、店やサービス機関そのものがないという状況になりつつあるのです。

絶対的なものだと思っていた「お金の価値」が変わる。これも、人口減少時代の大きな変化の一つです。


災害救助も防犯も、人が足りない!


少子高齢化がもたらす暮らしへの影響の中でも、とくに心配なのは、災害が起きたときのリスクです。

災害時の救助やボランティアは、どうしても人海戦術になりますが、警察や自衛隊はすでに人手不足に悩んでいます。役所などで働く公務員の数も減っているので、地域の被災状況を把握したり、災害からの復旧にも時間がかかるようになってきました。
平時でも、救急車を呼んでもなかなか来ない、警察に通報してもすぐに駆けつけてもらえないといった事態が予想されます。

これからは行政だけに頼らずに、小さな地域や集合住宅内で防災・防犯の対策をして、困ったときに助け合えるような仕組みを日頃からつくっておくことが必要です。都会ほど近所付き合いが希薄かもしれませんが、プライバシーや個人情報の保護が行き過ぎると、非常時の救助が難しくなってしまうという側面も知っておきたいですね。

 


コロナでわかった、未来の日本の姿


今回のコロナ禍で、災害弱者になりやすい高齢者は感染弱者でもあることがはっきりしました。2020年代、日本の4人に1人が70歳以上となることを考えると、今後、感染症の大流行が起きた場合には重症患者が爆発的に増える可能性も否定できないでしょう。

暮らしのさまざまな場面で人口減少の影響が少しずつ見えてきていたところに、コロナでの緊急事態宣言が重なり、未来の日本の姿が一気に顕在化したのが、2020年の現在なのです。

こうして挙げていくと、ネガティブな話題ばかりで気が重くなってしまうかもしれません。ですが、日本経済が縮んでいくことは明らかなので、今までと同じようなサービスを求めているかぎりは、不満が募るばかりです。

でも、考え方を切り替えて、多少不便な世の中になっても誰もが置き去りにならずに生活していけるような社会へと舵を切れば、人口が減っていくなかでも豊かに生きていけるはずです。私たちにできることは、まだまだたくさんあるのです。

『「2020」後 新しい日本の話をしよう』河合雅司著 講談社刊/1300円
ISBN 976-4-06-519592-5

コロナで一変した日本はどうなる?
もう「コロナ前」には戻れない。それでは、この「2020」後の日本はどうなるのか。人口減少、少子高齢化が進む日本を大予測してベストセラーとなった『未来の年表』の著者がわかりやすく読み解きます。


河合雅司/かわいまさし
作家・ジャーナリスト、人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授、日本医師会総合政策研究機構客員研究員、産経新聞社客員論説委員、厚労省をはじめ政府の各有識者会議委員なども務める。1963年、名古屋市生まれ。中央大学卒業。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞ほか受賞多数。主な著書に『未来の年表』『未来の年表2』、『未来の地図帳』(いずれも講談社現代新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。

構成/黒澤彩
イラスト/白井匠

 

第1回「『未来の年表』著者・河合雅司さん「コロナと少子高齢化が女性の働き方を変えていく」#コロナとどう暮らす」はこちら>>