私の職場であるアン・ディマンシュ・ア・パリは、ロックダウン以後、長い間の協議を重ね、再オープンに向けての準備をして来たのだが、社長とマダムの慎重な判断により、夏の間は引き続きクローズを決め、9月の営業再開を目指す、という運びにあいなった。

ブルターニュの海をイメージした人気商品「ガレ」。キャラメル、バニラ、サブレブルトンのコンビネーション。

これまでマダムとは定期的に、近況報告も兼ねて電話で話しをしていたから、状況は知っていたものの、いざ職場復帰が秋までずれ込む事になると、動揺を隠せずには居られなかった。

「Hiroko! 心配しないでね。お給料は国が保証してくれるし、うちはリストラを1人も出さない。あなたが復職を楽しみに待っているのを知っていたし、私達にとっても苦渋の決断だったわよ。悲しいわよね。でも、どうか少しでも、あなたに美しい夏を過ごして欲しいの。ね、9月に笑顔で会いましょう!」

マダムの柔らかで優しい声が懐かしく、胸に染み入った。
嗚呼、いきなりぽっかり空いた丸2か月。はて、どうしたもんか。

予定していたイベントがほぼ中止、夏の日本行も無くなってしまったから、彼と田舎の家にでも行こうかな、くらいは思っていたものの、通算半年近く働かない事になるわけで、正直、途方に暮れた。

ヴィーガン仕立てのタルトタタン。何種類かのオイルを使う事によって、ホイップクリームと同じ味覚が実現するという、目から鱗の逸品。

去年の夏のブログを振り返ってみると、そこにはきらきらと輝く自分が居た。これ、本当に私なのかしら。本当に1年前の出来事だったの?

全てが夢の様に思えてくる。少なくとも、情けない、ふにゃふにゃの、今の自分とは、とても同一人物には思えなかった。

お得意の自問自答が始まり、拍車がかかる。終には、この11年間で築いて来たものが、全て失われたのかもしれない、とまで思った所で、我に返った。ばかばかしい。やーめた。

今、自分の生活が無い様な気がするのは、個人差は有れど、Covid-19によって引き起こされ、世界中の人々が同時に、多かれ少なかれ経験している事なのかも知れない。宙ぶらりんの状態で、とりあえず生きることを強いられた現在の状況には、人間をそのような心境にもっていく力というか、流れがある、と思った。

秋になるとお目見えする、可愛らしいキノコ型のティラミス。

さあ、Hirokoさん、これからどうする?
今までも、パリで数々の困難を乗り越えて、精一杯自分らしく生きて来たんでしょ。

この流れに巻き込まれるのか、抗うのか?
はたまた身を任せる、というのも意外にありかもね。

パリジェンヌってさ、パリに棲んでいるから成れる、というわけじゃない。
要は心意気、生き様みたいなもんなんじゃないの。

持ち前のパンクなスピリットで、和製パリジェンヌは独り今日も行く。――何処へ?

さぁ。私にもまだ分りません。

それでは、こうご期待、という事に致しましょうか。