若者の脳出血はメカニズムが違う

 

では、そんな中、まして若い人に脳出血など起こるのだろうかと疑問に思われるかもしれません。

 

しかし実際、若い方の脳出血というのは少しメカニズムが異なることが知られています。今まで説明してきたのは、特にご高齢の方の脳出血のメカニズムです。ご高齢の方では、長年の生活習慣の蓄積によって、水道管にサビがついたり、脆くなったり、圧が高まったりして、結果として、破裂やつまりを起こしてしまうのです。

一方で、若い方では、まだ水道管も新品であり、サビもつまりもないはずです。それでも脳出血が一定の確率で起こってしまうのは、「そもそも生まれ持った水道管に不具合があったから」ということが考えられます。

実際に、脳出血の患者さんを診療していると、特に若い方では、血管奇形やモヤモヤ病と呼ばれる遺伝的な血管の異常が見つかります。これらの病気の方は、生まれ持って水道管に故障や不具合があるのです。それにより、サビがつかなくても壊れてしまったり詰まったりしてしまいます。こういった生まれつきの異常が、清原さんでも問題になっていた可能性が考えられます。

また、米国では、コカインや覚醒剤などの使用も原因として考えられることがありますが、日本国内では稀でしょう。コカインなどの薬物は急速に水道管のサビや詰まりを起こし、若くして脳卒中や心臓の病気を起こしやすいことが知られています。
 

脳出血の症状と後遺症


同じ脳出血でも症状は出血する場所によってまちまちです。脳の機能は場所によりある程度決まっています。例えば、大脳の「被殻」や「内包」という場所は脳出血の好発部位として知られていますが、ここで出血が生じた場合には、左に起これば右の半身麻痺、右に起これば左の半身麻痺といった症状が出ます。神経の細胞は大脳より下のレベルで左右に交差するので、出血が生じた場所と逆側の機能が失われることになります。また、出血が多くなると、頭痛や吐き気を感じます。

中には頭痛を感じただけで「脳出血かもしれない」と心配になり、受診される方もいらっしゃるのですが、通常脳出血ではこのように「他の症状」も伴いますので、頭痛がしただけで無用に「脳出血かもしれない」と心配いただく必要はありません。

出血があまりに多ければ、意識や呼吸といった生命の維持に大切な機能も失われることにつながり、命を奪われてしまうこともあります。実際に、脳出血を起こした方全体で見ると、1年後の生存率が46%、5年後の生存率が29%だったとする論文もあります(参考8)。それほど高率に人の命を奪う病気でもあるのです。

また、後遺症を残しやすいのも特徴です。脳出血後に生存した方たち全体で見ると、自立した生活を送ることができるのは全体の約半数と報告されています(参考8)。一方、血管奇形を原因とした若い方の脳出血では、それほどには被害は大きくないことも報告されており(参考9)、年齢や原因によってもその確率は異なることがわかります。
 

脳出血の検査、診断、治療、リハビリ


脳出血の診断はほとんどの場合、頭のCT検査を行うことで容易に可能です。CTは多くの病院が備えているので、比較的どこの医療機関でも診断することができます。先にご紹介したように、手や足が動かなくなってきた、頭痛や吐き気がある、などの症状があれば、脳出血を疑ってCT検査を行い、診断をします。

診断後の治療としては、通常集中治療室に入り、症状の悪化がないかを慎重に観察しながら、血圧を下げる治療を行ったり、けいれんを防ぐ薬を投与したりします。また、脳は硬い骨に囲まれており、出血をすると内部の圧が高まってしまいます。すると、たちまち意識を失ったり呼吸が止まったりする危険な状態になりえますので、圧が高まりすぎないように観察し、必要に応じて圧を下げるような治療も行います。

また、症状や出血量、出血した場所に応じて、緊急手術が行われることもあります。手術によって、血液を取り除き、脳へのダメージを最小限に抑え、頭の内圧を高まりすぎないように抑えるのがその狙いです。

その後は、後遺症が軽減するよう、丹念にリハビリテーション を積み重ねていくことになります。日常生活を取り戻していく上で、このリハビリテーション の過程もとても大切です。
 

何でも検査すればいい、というわけではない


清原翔さんのように、有名な方の脳の病気の報道が出ると、必ず出る議論が「皆にMRIをすべきだ」というような検査偏重論です。しかし、検査は必ずしも「やれば良い」というものではありません。

あらゆる医療行為を考える上で、その利点と欠点の両者に目をむけ、天秤にかけることが重要です。ここでいう「利点」は、MRIで早期に血管奇形を見つけ、脳出血が起こる前に薬の投与や手術を行なって未然に防ぐことができるというものです。

例えば、先にご紹介した「もやもや病」の場合、日本国内では多くても1年で10万人に1人の割合で見つかることが報告されています。すなわち、MRIで「もやもや病」が見つかる確率は単純計算で0.001%ということになります。0.001%の確率で見つかり、この確率以下でメリットを享受できるということになります。

一方で、MRIを受けると、1-2%程度の確率で、脳出血と関係ない「異常」所見が見つかることも知られています(参考10)。これは「欠点」になり得ます。こういった異常所見が見つかってしまった場合、仮にそれが病的でなくても、不要な検査、治療に結びつきやすいことが知られています。患者も医師も「異常」が見つかると不安になるものです。不安は、その後の不要なアクションにつながります。見つける必要のなかった所見で、最終的に必要のなかった手術を受けることになり、その手術で後遺症が残ってしまった。そんなことになったら、悔やんでも悔みきれません。このようなことを考えるとお分かりいただけると思いますが、なんでもかんでも検査すればいいというわけではありません。


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