性教育を通じて「女の子らしさ」の縛りから解放する


性教育について、吉祥女子中学・高等学校の綾部香先生はこう続けます。

「いま、グローバルとかダイバーシティとかいわれているわけですが、つまり歴史とか文化的背景とかが違うひとと協働していかなきゃいけないということですよね。だとすれば、男女の枠を越えて他人を大切にするとか他者理解とかができることが大前提になるはずです」

ひとはそれぞれに違う。でもそれぞれがもつ生きる尊厳や基本的な人権は同じ。そういう視点で性についてもとらえることで、「女子力」や「女の子らしさ」などという縛りから解放される。

 


「保健体育で取り扱うのはもちろんなのですが、たとえば男女雇用機会均等法は視点を変えて社会科でも取り扱います。家庭生活という観点からは家庭科で。生殖という科学的な観点からは理科で。もちろん避妊についても、LGBTsのような性の多様性についても学びます。本校の生徒たちはそういうところもしっかり勉強しているので、いろんな違いを受け入れられるようになっていると思います。ジェンダーの縛りから解放されるという流れでいうと、男女だけが縛りではありません。私は卒業間際の生徒たちに、借金してでも海外に行きなさいと言っています。広い世界に自分をさらす機会をもちなさいということ。男女を超えて、国も超えて、いよいよ『じゃあ、自分とは何だろうか』ってことを見つけてほしいなって。そのような視点をもっていければ人間として、性別も人種も国籍も宗教も超えて共通のゴールにたどりつけるんじゃないかって思いますね」

 

道徳的な観点から「違いを認めましょう」「思いやりをもちましょう」と言うのではなく、「人権」という普遍的な概念の一部として性をとらえ、その延長線上に、性別だけでなく人種や国籍や宗教の違いも超えることができるはずだというわけです。

日本では近年、道徳が教科化されました。いまの政府は意図的に人権教育を避け、道徳教育や主権者教育という言葉で置き換えているように私には感じられます。しかしこの混迷する時代に必要なのは、道徳教育よりも人権教育だろうと私は強く感じています。

『21世紀の「女の子」の親たちへ 女子校の先生たちからのアドバイス』

著者:おおたとしまさ(祥伝社/1500円税抜)

教育ジャーナリストの著者が女子校のベテラン先生たちに話を聞き、21世紀を生きる「女の子」の親たちが心得ておくべきポイントをまとめた一冊。本書は『21世紀の「男の子」の親たちへ』(祥伝社)待望の女の子版。


構成/金澤英恵