ビル・ゲイツが見せた、父親としてのお手本

アメリカの小学校へ通っていた頃。

「本当ですね。簡単な答えはありませんが、ジェンダーの問題に関しては、私自身を含め、個人のレベルでできることはまだまだあると思っています。たとえば、夫や親との関係の中で、男女の役割を少しでもよくする努力をすること。微力かもしれませんが、微力も波及した際には大きな波になる。

ビル・ゲイツさんの妻である、メリンダ・ゲイツさんが書いた『いま、翔び立つとき〜女性をエンパワーすれば世界が変わる』という本の中に大好きな例があります。メリンダさんとビルさんの間にはお子さんが3人いて、彼女は子育てに専念するために自ら進んで退職されました。

お子さんが幼稚園に入園の際、夫婦で良さそうだと決めた園は、自宅から車で30分と結構遠い場所にあったそうです。彼女は、専業主婦である自分が当然日々の送迎をするものだと思ってはいたのですが、『運転に多くの時間を取られてしまう』とボヤいたら、ビル・ゲイツさんが『じゃあ、週に2回は僕が送迎するね』と。

当時、彼はマイクロソフトのCEOで、多忙な日々を送っていた。さらに、園とオフィスは自宅を挟んで反対方向でもあった。でも彼は『娘と話す時間もできるし』と実際に週2回の送迎を担った。

すると、数週間後には送迎をする父親が増えたそうです。『ビル・ゲイツだってやってるんだから、あなただってできるでしょ?』と(笑)。妻側が『もう少しこうして欲しい』と思っていることに関して、夫は単純に気づいていない可能性もあります。伝えてみたら、意外と状況は変わるかもしれません。

たとえば、ビル・ゲイツさんのように夫が週2回『子の送迎のための17時に退社』を行なったとします。その職場でははじめての事例になるかもしれませんが、それは後輩達にすごくいい影響をもたらすと思うんです。

政策や経営層の意識改革ももちろん重要です。けれど、自分にできる小さな変化が、少しずつまわりに波及する可能性もある。女性が我慢をして男性をたてる、というのは過去の世代からの刷り込みだと思います。まずは女性側からその思いこみを少し緩める。

究極的には、一緒に暮らしていて、これからもそうし続けたいのなら、男性も女性も相手の幸せを願っているはずだと思うのです。相手がどうしたら幸せかを考えると同時に、自分が幸せを感じられなかったら、相手を幸せにはできませんよね」
 

——「家族を幸せにするために、もっと働かなきゃ!」と思う男性もいます。

「家族を幸せにすることは稼ぐこと、あるいは稼いでさえすれば良いと考えてしまう人は多いかもしれません。私は、男性の友人には『あなたが頑張って働きに行って、土日に家でゴロゴロしていることは奥さんの幸せには直結しないよ。 あなたが頑張る必要はもうないから、これからは奥さんに輝いてもらうのがいいんじゃない?』なんて言ってますね(笑)。人生100年時代、先はまだ長いですから、お互いが無理なく過ごせる方法を模索していけたらいいですよね」
 

聞き手・文/代麻理子

 

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