自分を解放するということ
子供が独立したころ、改めて自分の自立について考えたという小林麻美さん。それまでは子供をどうするかということが、人生の課題だったのが一変します。
「ふっとあるとき『あれ、そうだよね、後は見守るということなのだな』と思って。この先、自分に残っている時間がどれだけあるのかはわからない。でも私にできることがあるのなら、少しずつでも何かをやっていけたら幸せだなと思ったのです。
その一つが芸能界での仕事。自分のもとのキャリアです。ずっと続けているボランティアはありますが、仕事としては、やはり自分でキャリアを重ねてきたことしかできませんよね。逆にそれならできるかなとも思って。そして偶然の再会があり、仕事を再開することになったのです」
再開してからのスタンスは、25年前にやめる前とは違いますか。
「全然違いますね、やはり。やめる前はすべての時間が仕事ということで動いていましたし、こういう役もやってみたいとか、こういうページを作ってみたいとか、そういった意気込みがありました。今はちょっと違います」
肩肘張らない感じでしょうか。
「う〜ん。いやになっちゃったらどこかに行って、のんびり暮らせばいいかなって(笑)。そういうことも、もうこの歳になったら許して、みたいな。
今は昔と同じように何かをしようと思っても無理ですよね。時代も違うし、体力も違うし、すべて違いますから。たとえばバリバリ働いていた看護師長の方でも、やめて私ぐらいになって、同じようにオペができるかといったらできないと思います。それでも今できることは絶対にあると思う。もうオペはできないけれど、検診はできます、とかね。そんなふうに考えてできることがあるならやってみると楽しいのかな、とは思いますね」
そう思えるのも、仕事をやめてから再開するまでの25年間があってこそ。何か一つのことをやり遂げたという気持ちがあるから、と小林さんは振り返ります。
「でもあっという間でした。あっという間すぎて、やめたときの自分から全然成長していないような気がするんです。もちろんこれまで生きた人生はきちんとあるのですが、こと仕事となると、やめたときの記憶しかないので、今につながらない。37歳から突然今になってしまったような。
ですから最初はスタンスが取れませんでした。今の自分と、小林麻美という人の間にとてつもない空白があって。まさに浦島太郎になった気分でしたね」
そうした空白感も、この4年間で徐々に縫い縮まってきたと小林さんは言います。
「やはり自分のなかで消化するにはこれだけの時間が必要だったのかもしれないと、今は思いますね。考えて打破できることはきちんと考えてやるけれど、考えてもどうにもならないことがあるでしょう。それはもういいじゃないかと。自分を解放してあげよう。そう思っています」
コップにはまだ水が半分ある
ボーッとしているのも、働くのも苦ではないし、家事も料理も嫌いではない。その時々でやることを見つけてそれをこなすのが上手かもしれないと、小林麻美さんは自らを分析します。
「私はノマドのようにどこでも暮らせて、どこでも生きていけるタイプだと、最近自分で気付きました(笑)。ここでなければ住めないとか、これでなければできないというのが、あまりないのです。年齢を重ねるにつれ、徐々にいろいろなことを達観して、はじめてわかりました。
年を取るのも悪くないと思うのはそういうときですね。私はコップにはまだ半分水があると考えるほうです。ですから、これからも、今自分にあるもの、与えられているものに感謝してやっていこうと思っています」
そして、仕事だけでなく、友人や家族との時間も大切にしているそう。
「一昨年初めて、女友達と4人で韓国に行ったんです。それまで旅行といえば家族と一緒に行くもの、と思っていたので、ものすごく楽しかった。昨年はベトナムに行きました。今度はパリに、と相談していた矢先にコロナで……。当面旅行は難しいので、旅行に匹敵するような楽しいことって何だろうと、考えています。
先のことはわからないですけれど、今は、こうして仕事をさせていただく時間、友人と会う時間、家族との時間、一人の時間と、いいバランスでできているので、幸せだなと思っています」
<書籍紹介>
『小林麻美 第二幕』
延江 浩 (著) 朝日新聞出
松任谷由実がプロデュースした名曲「雨音はショパンの調べ」で鮮烈な印象を残し、
「女が女に憧れる」(ユーミン)というロールモデルを作った伝説のミューズ、小林麻美。
しかし、1991年に突如「引退は自分なりの禊ぎだった」と芸能界から身を引き、極秘出産、結婚。
その真相とは?
そして2016年に四半世紀ぶりに「クウネル」表紙で復活するまでの舞台裏、
ユーミンとの友情、夫である田邊昭知氏との日々……。
小林麻美自身が初めて語り尽くした評伝。
取材・文/髙橋真理子
構成/片岡千晶(編集部)
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