声を上げていくことで多少なりとも社会は変わる

 

――プライベートな付き合いならそれも可能だと思うのですが、職場の「変わらない人」たちはどうすればいいのでしょう?緊急事態宣言が解かれた後、「リモートワークではなく出勤するように」と通告したり、役員や上長が積極的に出社をしている会社も多いです。

 

岸見:オンラインの会議だと、発言しなかったらその場に存在しないのと同じことになるのです。でも世のお偉いさんたちの中には、威圧感だけで存在していることを示そうとする人も多くいます。そういう人たちは、対面でない会議だと全く存在価値がない。だから対面しないと仕事はできない、と思い込んでいるような節がどうやらあるようです。

――そんな上司だったら、私たちは変わりたくても、会社は変わらないですよね。

岸見:価値観が共通の人とだけ付き合っていくことを考えたとき、極論を言えば、「今の職場でそれを貫くのは無理だ」と分かるわけです。古い体質で、到底若い人の力で変えていくことはできない会社は多いですね。絶望的に無理だと思ったなら、転職するぐらいの気迫がいると思います。

ですが、変える努力も大事です。今回のことで、たとえば長時間かけて通勤することは必要ない、と感じた人は多いでしょう。もっと言えば、オフィスすらいらないかもしれない、と。
これまでは「こんな働き方はやめるべきだ」と思っていても、少数派だと思っていたから発言しなかった、という人もいるでしょう。

でもそういったことに多くの人が気づいた以上は、声を上げないといけません。会議は在宅でやればいいし、通勤だって毎日しなくていい、と。そういうことを多くの人が言い出せば、社会はきっと変わっていくことでしょう。

――ひとりひとりが「私の力なんて……」と思わず、発言しなければならないんですね!

岸見:言わなければ、絶対に変わらない人たちですから。でもそうやって変わっていけば、お互いにメリットがあると気づくべきなのです。
家庭に自分に居場所がないと思い込んでいる人は、それゆえ会社に居たがるのかもしれませんが、実際はそうではないかもしれない。

昼食や夕食を家族と一緒にとれるわけですし、これはこれで悪くないと気づくかもしれません。家で働くことは、「これまでの勤務形態とは違って良いことがある、本当はこうあるべきなんだ」、と気付くかもしれません。多少なりともそういう人が出てくれば世の中は変わっていくだろうと、私は思っています。

――コロナ禍ではこれまで政治的発言をしなかった芸能人がSNSで発信したことで国政に影響を与え、話題にもなりました。

岸見:アドラーの言葉を使うと、「仲間はいる」と実感する人が増えてきていると思います。職場でも声を上げれば、賛同する人は絶対にいるわけです。
ですから声を上げる勇気を持ってほしいですし、その勇気を持つのは他の人ではなく私だ、という自覚を持ってほしいと思っています。


次回は「コロナ時代に考えるべき幸福」についてお届けします。
 

撮影/目黒智子
取材・文/山本奈緒子
構成/片岡千晶

 

第2回「コロナ時代に変わった幸福観「成功を諦めれば幸せになれる」」7月24日公開予定

第3回「ストレスを感じる家族関係の見直し「いつも一緒、でなくていい」」7月28日公開予定

第4回「コロナを経た新しい時代で生きていくために大切なたった一つのこととは?」7月31日公開予定

 
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