ワクチンの接種はいつから開始するのか?

 

現在は、いずれのワクチンも、有効性を証明するために最も大切な試験、第3相試験にまで進んでいます。

第3相試験では数万人規模の被験者に対してワクチン投与が行われます。本物のワクチンを投与される人と、偽物のワクチンを投与される人に分けられ、それぞれの人に見られる反応が比較されます。この試験で比較される「反応」というのは、第1相試験で見ていたような「抗体の量」という試験管の中の話ではありません。「感染を防げるか」、「重症化を防げるか」といった皆にとって大切な、実社会で起こることの話を意味しています。

このような試験を行うことで、「実際にワクチンは人を助けられるのか」が初めてわかることになります。これらの試験結果は、早くて今年の10月や11月以降、今冬から来春に判明する見込みです。

本来はこれらの結果を待ち、有効性と安全性が確認できてから量産体制に入り、ワクチンを普及するのが理想的です。実際に、多くのワクチンはそのようなステップを踏んで普及してきました。

しかし、今回は緊急事態。その結果を待っていては、量産体制に入り充足するのが遅れてしまいます。この遅れをなくすため、試験結果を待たずにワクチンの量産が開始となり、来年の春頃には世界の多くの方に十分足りるような数のワクチンが準備される計画となっています。こうすることで、試験結果が判明次第、すぐに皆の手元に届けることができるのです。

ここから各企業、各国政府は大きな「リスク」をとっていることが分かります。そのリスクとは、ワクチンが危険だというようなリスクではありません。量産された段階では、有効かがまだ分からないのです。せっかく巨額の投資をして、全てが台無しになる可能性も残されているということです。

 


ワクチンの有効性はどれだけ持続するのか?


また今、研究者たちの関心事は、「ワクチンがそもそも有効か」よりも、ワクチンの有効性がどの程度持続するかということにうつり始めています。

軽症の感染者の抗体の推移を追いかけてみると、体内で作られた抗体が半分に減るまでの時間がわずかに10週程度であることが報告されています(参考3)。

こうした事実から、この新型コロナウイルスに対するワクチンも仮に短期的には有効であったとしても、長期にそれが維持されるかという点は懸案事項です。現在行われている試験でも3ヵ月後や6ヵ月後の有効性が評価される予定になっています。その答えは来年の1月や2月になってみて初めて分かるということになります。

また、もう一つの「リスク」は、仮に有効なワクチンを量産できても、実際に人が打ってくれるかというところにあります。仮に6割ほど感染を防ぐワクチンができたとして、ほぼ全ての方が注射をしてくれなければ、いわゆる集団免疫は完成しないということになります。

実際、インフルエンザのワクチン接種率は毎年4割から5割程度、より重要となる高齢者でも6割程度と報告されています。今回は世界が注目する感染症ではありますが、どんなに科学が素晴らしい有効性を証明したとしても、ワクチン忌避はなくなりません。あるいは「コロナはただの風邪」と論じる者には届かないかもしれません。

しかし、歴史から学び、過去のパンデミックの経験を振り返ってみれば、人類が感染症を克服する力となってきたのは、いずれも「科学」だったということが痛いほどよく分かります。この先どのような未来になるかは分かりませんが、このワクチンの開発こそが、今後のパンデミックの行く末の鍵を握っていると言っても過言ではないでしょう。

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参考文献
1 Jackson LA, Anderson EJ, Rouphael NG, et al. An mRNA Vaccine against SARS-CoV-2 - Preliminary Report. N Engl J Med 2020; published online July. DOI:10.1056/NEJMoa2022483.
2 Folegatti PM, Ewer KJ, Aley PK, et al. Safety and immunogenicity of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine against SARS-CoV-2: a preliminary report of a phase 1/2, single-blind, randomised controlled trial. Lancet 2020. DOI:10.1016/S0140-6736(20)31604-4.
3 Ibarrondo FJ, Fulcher JA, Goodman-Meza D, et al. Rapid Decay of Anti–SARS-CoV-2 Antibodies in Persons with Mild Covid-19. N Engl J Med 2020; published online July 21. DOI:10.1056/NEJMc2025179.