「この曲を出せないなら歌手をやめる」と宣言

 

この女優挑戦以前にも、小柳さんは「これは人生のターニングポイントだ」と感じたある出来事で、事務所と激しく戦ったそう。

「デビューして7年目のとき、『星の砂』という曲を出したんです。この曲はそれまでの私の清純なイメージとは全く違って、エキゾチックでスケールの大きいドラマチックな歌でした。だから私は初めて聴いたとき、『私にピッタリ!絶対にこれを歌いたい!』と思ったんです。

 

ところが製作陣の方たちは、この曲はシングルには向いてないと思ったらしく、A面にするつもりはなかったそう。そこで私は、ねじり鉢巻きを巻いて、じゃないですけど、『これをA面にしてください!』と一人で戦ったんです。『この歌を世に出せないなら、私は歌手をやめてもいいです』とまで言い切って。
そうしたら、それまで大人しかった私があまりに食い下がるものだから、ディレクターも考えてくれたみたい。『ちょっと若い女性たちに聞いてみよう』とアンケートを取ったところ、90%以上が『この歌、好き!』と答えたんです。それでディレクターが社長を説得してくれて、ようやく『星の砂』は陽の目を見ることができたというわけなんです」

『星の砂』は予想通りヒットし、小柳さんはこの曲で、その年の紅白歌合戦にも出場を果たします。そしてこの出来事をきっかけに、小柳さんは自分の発言に少しずつ自信が持てるようになったそうです。

「意外かもしれませんが、それまでの私は、事務所にとって“文句を言わない扱いやすいタレント”でした。会社の方針にきちんと従うだけでなく、ミスもしないので周囲の手も煩わせない。だからこそ『星の砂』を歌いたいと主張したときは、かなり驚かれたものです。
でもこの曲は多くの人に愛されました。そのあたりから周囲の方たちも、『ルミ子が何かを主張してくるときは、単なるワガママじゃない。ちゃんと考えがあって主張しているんだ』と耳を傾けてくれるようになったんです。
とはいえ、ダンスを取り入れたときはやはり猛反対を受けましたね」
 

踊りをやらないことは自分を否定することだった


今の40代くらいの世代にとっては、小柳ルミ子さんのイメージといえばセクシーに踊りながら歌う歌手、というものではないでしょうか。でも、今の60代以降の世代にとっての小柳さんは、“みんなの恋人”というデビュー時のキャッチフレーズが物語るように、清楚で素朴な普通の女の子、というイメージでした。

「踊りを始めたのは28歳ぐらいからですね。それまでの私は直立不動で一生懸命歌う、というスタイルが定番でした。
そんな私がハイレグを着て網タイツを履いて、高々と脚を上げて踊るようになったものですから、そりゃあファンの方は驚いたでしょうね。『あの“隣のルミちゃん”が、どうしちゃったの⁉』と、みんな離れていってしまいました。

でも私はそれでもいいと思ったんです。私は幼い頃からずっと踊りを習ってきたのに、この武器を個性として生かせないんだったら私という存在は一体何なんだ?という思いがずっとありましたから。踊りは私のアイデンティティで、踊りをやらないことは自分を否定するような気がしたんです」

しかし小柳さんの高いダンススキルと、“セクシー”という新しい一面は、次第に多くの人の支持を獲得していきます。
そして、当時日本のほとんどの人が視聴していた紅白歌合戦で、激しく踊りながら歌う姿を披露したことで、「小柳ルミ子といえばダンス」と一気に浸透。まさに、第二ステージの始まりでした。

「私たちの世界は周囲の期待に応えたり、ファンの好みに寄り添うことも大事です。でもあまりそこを重視しすぎて自分の本質をアピールできないと、ストレスが溜まって結局輝けなくなってしまうんです。
やっぱり自分で自分をプロデュースできないと、長く生き残ることはできない。でもそれはすごく難しくて。

 

しっかりした軸はありながらも、上手にしなりながら人の言うことにも聞く耳を持つ。そういう自分がいないと50年は続けられないと思いますね。ほら、真っすぐで堅い大木はボキッと折れやすいけど、細くて柔らかい柳はしなってなかなか折れないじゃないですか。
だからいろんな情報を得て自己分析をしながら、哲学を持ってブレない自分を確保していく。そういうしなやかな強さを持って、今後も頑張り続けたいなと思っています」

自分で自分をプロデュースし、清純派アイドル、大人の女性歌手、ダンス、そしてヌードも厭わない女優業と、常に新しい姿を見せてきた小柳さん。
でも挑戦は、ここで終わりではありませんでした。この数年後に小柳さんは、究極の歳の差&格差婚を発表し世間を驚かせます。
次回は、その結婚にまつわる思いをお届けします。

取材・文/山本奈緒子
撮影/Junko Yokoyama (Lorimer management+)
構成/片岡千晶(編集部)

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