熱やだるさ、頭痛では、新型コロナウイルス感染症と見分けることが難しい

 

これらの症状は人によっても大きく異なります。このため、何かの症状だけを切り取って、これがあるから熱中症だ、これがないから大丈夫と安心するのは危険です。熱ひとつとっても、発熱がなくても熱中症の可能性が十分あります。逆に、暑いところにいて発熱があったから、イコール熱中症でもありません。例えば、流行中の新型コロナウイルス感染症でも、熱やだるさ、頭痛が出ますが、医師の私にも症状から見分けをつけるのは難しいことが多々あります。少しでも体調が悪い時には、熱中症も新型コロナウイルス感染症の可能性もあり、しっかり休みを取ることが大切です。

 

体温が上昇しすぎると、体内の様々な正常機能が失われてしまいます。例えば、体内で化学反応を進める酵素たちは平熱でこそ正常に働き、その反応を進められます。体温が上昇してしまうと、化学反応が進まなくなってしまいます。また、体内が高温になると、炎症が生じてしまい、各臓器に障害を起こします。これらのメカニズムで、たちまち体調を崩し、重度の場合には、命を奪うことにつながるのです。
 

熱中症を2つのタイプに分けて、対応策を考える


熱中症はその原因によって、古典的熱中症と労作性熱中症の二つに分けることができます。この二つの名前を聞いてピンとくるでしょうか?これら二つは、メカニズムが少し異なります。

前者の古典的熱中症は、環境の高熱で体温が上がり、体からの熱放散機能が低いことで起こります。例えば、様々な持病を抱えたクーラーを使わない高齢者、暑い車内に取り残された小さなお子さんなどが起こす熱中症がこれにあたります。実は例年約半数がこの古典的熱中症です。これらの方は室内で、安静にしていても起こしてしまう、という点に注意が必要です。暑い外に出なければ大丈夫だろう、と思っていると危険にさらされてしまいます。

一方で、労作性熱中症とは、アクティブな年代の方に起こる熱中症です。これは日常の活動や運動に関連して、身体で作られる熱が熱の放散のメカニズムを超えてしまうときに起こります。
 

熱中症のリスクが高い人とは?


では、熱中症はどのような人がかかりやすいのでしょうか。

まず、室内で生じる古典的熱中症の場合、エアコンのない自宅での一人暮らし、自分のケアが十分にできていないというような社会的要因がリスクになります(参考2)。あなたのご両親や祖父母が一人暮らしをしているという場合には、こまめに電話で連絡をとり、クーラーを使っているか、水分をとっているかなど確認をしてください。高齢になると、喉の乾きも感じにくくなるものです。喉が乾いていないから大丈夫と安心し、体のコントロールが甘くなり、発症してしまうことがあるのです。

慢性疾患もリスクになります。特に、心臓の持病や糖尿病を持たれている方は、リスクが高まりやすいことが知られています。それらの病気はしっかりと治療することが予防につながりますし、脱水に陥りやすい夏場は一部の薬を調整する必要が出てくることもあります。暑い中、コロナウイルスのリスクも重なり、病院が足遠くなられているかもしれませんが、この暑さを乗り越えるにあたりしっかりと主治医と相談をする機会を持っていただくことが大切です。
 

新型コロナ重症化リスクと共通すること


そのほかのリスクとして、年齢、肥満なども挙げられます(参考2)。これは、いずれも新型コロナウイルスの重症化リスクと共通するものです(参考3)。肥満があると、重量に比して、皮膚表面の割合が少なくなります。皮膚表面は熱を逃すのに重要な役割を果たしているので、相対的に熱を下げる仕組みが働きにくいのです。実は、日頃のダイエットは、熱中症の予防にもつながっているのです。

また、薬もリスクになります(参考4)。身近なものでは、花粉症や、じんましんの薬を飲んでいる方は要注意です。汗をかきにくくなる副作用があり、体温調節が平時に比べて弱くなっている可能性があります。薬の中止が可能か、変更が必要かなど、かかりつけ医とご相談ください。

生活習慣に目を向ければ、アルコールもリスクになります。アルコールには利尿を促す作用があり、脱水に傾きやすいことがその一因です。アルコールを飲んだ日は運転を控えるだけでなく、運動を控える必要もあるのです。
 

古典的熱中症の有効な予防法は?


それでは、熱中症をどのように予防していけば良いでしょうか。一度発症すれば命にもつながる熱中症、治療以上に、予防が大切な病気です。

まず、古典的熱中症は、先に説明したように、高齢者や幼児に起こりやすく、介護者や同居する家族からの働きかけがとても大切です。冷房のかかった涼しい部屋で過ごすよう促し、扇風機を使用してもらい、こまめな水分補給について家族からも見守ることが必要です。社会的に孤立した高齢者で起こりやすいことが知られており、一人暮らしのご親戚を持つ方はこまめに電話で連絡をとり、水分補給などを適宜促してあげてください。

関連記事
新型コロナ重症化リスクのある5つの持病>>