(5)着替えはこまめに

 


体温調整の鍵を握るのが「蒸発」のメカニズムであることは、先ほどご説明した通りです。汗はその蒸発において重要な役割を担いますが、汗ですでにびっしょり濡れてしまった衣服を着たまま運動を続けていると、この蒸発のメカニズムが働かなくなり、たちまち熱中症を発症してしまいます。なるべく通気の良い衣服を選択し、汗で濡れてしまったらこまめに着替えをすることも大切です。

 


(6)体調が悪い時は休む


例えば風邪も、現在流行している新型コロナウイルス感染症も、熱中症のリスクです。風邪かな?と思ったら「コロナウイルス感染症を懸念して休みましょう」というのはだいぶ浸透したコンセプトかも知れませんが、体調が悪い時に無理して運動をしない、暑い中外出しないというのは、熱中症予防の上でも大切なことなのです。
 

(7)日頃の準備も大切
 

突然暑くなった場合や、突然運動を始める方では、より熱中症を発症しやすいことが知られています。体はだんだんと慣らしていけば、その分だけ適応しやすくなります。突然強度の高い運動をするのではなく、2週間程度かけて少しずつ強度を増やしていくことで、熱中症を防ぐことができます(参考5)。
 

(おまけ)熱中症対策を謳うサプリメントに科学的根拠はない


クエン酸やビタミンCなど、熱中症に効くという謳い文句で販売されているサプリメントも見かけますが、それらに明確な科学的根拠はありません。むしろ、サプリメントをとっているから大丈夫という「偽の安心感」が心配です。まずは、これまでにご説明してきたような対策をしっかりと行っていただくことの方が大切です。

色々ご紹介してきましたが、何か一つでもお役に立つ情報はあったでしょうか。まだまだ暑い日は続きます。新型コロナウイルス感染症対策で、マスクやフェイスシールドをつける機会も多いと思います。暑くて苦しいのに、マスクをし続けて「マスク熱中症」になって、病院に運ばれたのでは意味がありません。人との距離が保てる時はマスクを外すなど、熱中症対策にも、気をつけていただければと思います。
 

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参考文献
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3 Petrilli CM, Jones SA, Yang J, et al. Factors associated with hospital admission and critical illness among 5279 people with coronavirus disease 2019 in New York City: Prospective cohort study. BMJ 2020. DOI:10.1136/bmj.m1966.
4 Kalisch Ellett LM, Pratt NL, Le Blanc VT, Westaway K, Roughead EE. Increased risk of hospital admission for dehydration or heat-related illness after initiation of medicines: a sequence symmetry analysis. J Clin Pharm Ther 2016. DOI:10.1111/jcpt.12418.
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