人の悩みのほとんどは、職場や学校、家庭での「人間関係」。どんなシチュエーションでも万能の「コツ」があるなら、誰もが知りたいものですよね。

6月に発売された新刊『英語で学ぶ カーネギー「人の動かし方」』の著者である木村和美さんは、アメリカに“駐妻”として滞在した際にアメリカ人のある特徴に気づき、それを取り入れたことが、周囲とのコミュニケーションにとても役立ったといいます。またそれは、“人間関係のバイブル”と呼ばれるカーネギーの世界的名著『人を動かす』で書かれていることにもつながっているのだとか。

今回は木村さんに、職場や家庭での円満な人間関係にはもちろん、英語上達にも役立つ“英語コミュニケーションの極意”を教えてもらいました。

 


7年の滞在で思い知った「ほめる力の大きさ」


私は大学やカルチャーセンターで英語を教えていますが、授業では「どうしたら英語がうまく話せるようになるのでしょうか」とか、パートナーの海外赴任に同行する人に「向こうの生活に早く溶け込みたいのですが、英会話のコツはありますか?」などとよく聞かれます。

これさえ会得すれば英会話はすぐできる、などという魔法のようなコツがあるのかどうかはいささか疑問ですが、大事なのは、英語のコミュニケーションスタイルを心得ていることです。一つの言語には、その裏にある文化背景やその言語を話す人の価値観というものがあり、それぞれの言語で、コミュニケーションスタイルが違ってきます。

基礎的な語学力はもちろん大事ですが、その言語圏のコミュニケーションスタイルを知っていることが、その国の人との会話、さらにそこでのつきあいや生活がスムーズに行くことになります。

英語圏、特にアメリカでのコミュニケーションで特徴的なことといえば、いろいろありますが、その一つが「よくほめる」ことです。私はアメリカのロサンゼルスに「駐妻」として約7年間滞在しましたが、その間、大学院に通ったり、向こうの大学で教えたり、また息子が通っている現地の小学校でボランティアをしたり……と、さまざまな経験をすることができました。その貴重な体験の中で、私がアメリカ人から学んだことが、「ほめる力の大きさ」です。

アメリカ人のほめ上手なことに、最初、日本人の私は新鮮な驚きを感じるととともに、感心させられたものです。それは親しい人同士とは限りません。初対面の人、通りすがりの知らない人にも、「良い」と感じたら気軽にほめ言葉をかけます。それはお世辞とは違ったものであり、何かを期待するものでもなく、ごく自然に自分がいいと思ったことをすぐ口に出すだけのシンプルなものです。

たとえば、アメリカに行って間もないころのことです。スーパーのレジで順番を待っていたときに、後ろに並んでいた見ず知らずの女性から「あなたのバッグ、いいですね」と言われたときには、一瞬びっくりしました。それは、友人が作ってくれた布製の手提げ袋でしたが、きれいな色の下地に刺しゅうが入っていて、アメリカ人には珍しく映ったのでしょう。私は、それが友人のお手製のものだと説明し、1~2分の短い、なんていうことのない、でもちょっと心の和む会話を楽しみました。

その後も、エレベーターの中、バスを待っているとき、郵便局の窓口で並んでいるときなど、知らない人からよく、ささやかなほめ言葉をかけられました。たいていは、着ているものや持っているものに対してのほめ言葉ですが、自分もちょっとうれしく、そこから会話につながったりすることが新鮮でした。

もちろん、友人同士、同僚同士でも、頻繁にほめ言葉が交わされていました。私にも、髪型を変えたときや、新しいイヤリングをつけたりすると、それにすぐ気がついて、さっとほめてくれるのです。

そういうささやかなほめ言葉に自分も、楽しい気分になり、会話のきっかけにもなることがわかりました。アメリカに暮らし始めて1年もすると、私自身もこのアメリカ流コミュニケーションスタイルを実践するようになり、友人や子どものママ友はもちろん、知らない人にでも気軽にほめ言葉をかけるようになっていました。

ちなみに「あなたのバッグ、いいですね」は、 “Your bag is nice!” という、日本の中学一年生で習う、初歩レベルの英語で簡単に表現できます。また、“I like your bag!”という言い方もよく使われます。このように中学生レベルの表現で十分なので、英語でほめることは決して難しくないのです。

 
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