2007年から連載が始まり、2019年には西島秀俊さんと内野聖陽さんのダブル主演でドラマ化もされたよしながふみさんの『きのう何食べた?』(「モーニング」で月1連載)。大好評だったドラマがきっかけでこの作品を知った人も多いのではないでしょうか? 来年には映画化も予定されています。ゲイカップル2人の日常と食卓を中心とした物語で、描かれる手料理の数々がたまらなく美味しそうなのはもちろんのこと、登場人物たちも私たちと同じように歳を重ね、いろんな悩みに直面しつつも、日々の暮らしと食生活を大切にしているところに多くの人が共感しています。8月20日には最新17巻が発売となったこともあり、改めてこの作品の魅力を紹介します。

物語の主人公は、ゲイカップルのシロさん(筧史朗)と、ケンジ(矢吹賢ニ)。シロさんは銀座の弁護士事務所に在籍する弁護士で、43歳(連載開始時)には見えない容姿を保っています(ただしゲイ受けはしない)。仕事にやりがいは求めないものの、実務能力は高く、きっちり定時で帰ります。貯蓄第一の倹約家で、料理が得意。1ヶ月の食費は25000円と決めており(連載途中で30000円に引き上げ)、近所のスーパーの底値をきっちり頭に入れつつ食材を上手に選んで買い、それらをうまく組み合わせてバランスのいい食事を作ることに生きがいを感じています。ゲイであることを周囲に知られることを極度に嫌い、職場でも一切隠しています。

 

パートナーのケンジはシロさんより2歳年下の美容師。美容学校時代の同級生・三宅さんが店長をやっている美容室で働いています。もう独立してもおかしくない年齢ですが、「お店もつのってめんどくさいじゃん?」と望んで雇われの身。技術的にはベテランとしては普通レベルでも、人当たりの良さと根気強さが強み。面倒な客の応対を得意とする「爆弾処理班」として重宝がられています。ゲイであることをオープンにしており、少しオネエ言葉でロマンチックなところがある、愛すべきキャラクターです。

 

彼らを中心に、弁護士事務所や美容室の面々、シロさん行きつけのスーパーで運命的な出会いを果たし、以来、料理友達として親交を深める佳代子さん一家、シロさんと同じく料理が趣味の芸能マネージャー・小日向大策さんとパートナーの井上航くん(小日向さんは「ジルベール似の美少年」と言うものの、実際はズボラな青年)のゲイカップル、シロさんとケンジの家族などといった人々が登場し、日々の暮らしが描かれています。

 

連載が続くにつれて登場人物たちも年齢を重ね、最新刊ではシロさんが52歳、ケンジが50歳になっています。10年も過ぎると、人にはいろんな変化が訪れます。ケンジは三宅さんがベトナムで美容室を出店することなり、店長を任されることに。慣れないレジ締め作業やパソコン操作に難儀するものの、客のニーズに合わせて営業時間を変更するなどしてなんとか店を切り盛りしています。シロさんも、所属する弁護士事務所で責任ある立場を避けてきたものの、店長になって奮闘するケンジを見ているうちに、自分も弁護士事務所の所長になることを決意します。

シロさんは、息子がゲイであることにショックを受け、新興宗教に走ってしまったことがある母と、母ほどヒステリックではないものの、ゲイへの理解があるわけでもない父との微妙な関係性に距離を置き気味でした。その後、父が食道癌の手術を受け、最新17巻では自宅を売却して夫婦で老人ホームに引っ越したりするなど、親の老い先に直面。ケンジのフォローも支えになって親との付き合いも穏やかなものになってきました。

ほかにも佳代子さんの娘がいつの間にか結婚して子どもを生んでいたり、シロさんの両親の実家の隣一家の息子が高校生になっていたりと、「年月が経つのは早いなぁ」としみじみしてしまうのは現実世界も漫画も同じ。時間の経過に伴う登場人物たちの変化が楽しめるのは、長い連載ならではの魅力です。

一方で、シロさんとケンジが食卓を囲んでご飯を食べながら会話を楽しむ様子は連載当初から変わらない、大切なひととき。スーパーでお得な食材を上手に買い、家に残っている食材も考慮に入れつつ、バランスの取れた夕飯を何品も作るシロさんの手腕はいつ見ても鮮やか。たまに出てくる、ケンジのガッツリ系多めな手料理も食欲をそそります。

料理シーンでは、数々のレシピはもちろんのこと、いくつかの料理を並行して手際よく作る方法や余った時のアレンジ方法なども、漫画を読むだけでするすると頭に入っていきます。凝った食材や調味料を使わずに作ることができ、中途半端に余った食材をうまく使いこなすところも、普通のスーパーでしか買い物しない倹約家のシロさんならでは。

「食べることは、生きること」という言葉がありますが、この作品には、誰かと一緒に食べるよろこび、気兼ねせずに好きなものが食べられる一人ご飯の楽しみなど、人生における食の大切さが丁寧に描かれており、心に染み入ります。また、ちょっと嫌なことがあったとしても、美味しいものを食べてとっとと上書きしてしまい、明日また頑張ろうと思えるようになります。

もしも誰かに「きのう何食べた?」と聞かれたとしたら、美味しかった料理とその時交わした会話を楽しく思い浮かべたいもの。日々の暮らしと食卓をもっと大切にしたくなる作品です。ドラマだけで原作は未読という方、ドラマでは描ききれなかったエピソードが満載なので、ぜひ漫画を読んでみて。ずっと愛読している人には、全巻をはじめから読み返すことをおすすめします。1巻と最新刊(8月20日に17巻が発売)を比べてみると、シロさんやケンジがいい感じに歳を取っていることが如実にわかってかなり面白いので! あと、クールなシロさんと乙女なケンジというキャラクターのズレはあるものの、同居生活も10年を超え、50代になってさらに深まる愛情や、お互いを思う気持ちが再確認できてじんわりと幸せな気持ちに浸れます。
 

最新17巻の発売を記念して、1巻の1話を無料公開!
かねてよりのファンの方も、未読の方もぜひ改めてチェックを。
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『きのう何食べた?』(1)

著者  よしなが ふみ 講談社

2DK男2人暮らし 食費、月3円万也。これは、筧史朗(弁護士)と矢吹賢二(美容師)の「食生活」をめぐる物語です。
 

 

『きのう何食べた?』(17)

著者  よしなが ふみ 講談社

今回のメニューは……サンマのガーリック焼き、フレンチトースト、レタスしゃぶしゃぶなど。