これまで語らせてもらえなかった人々にチャンスが

映画『ハリエット』撮影中のケイシー・シモンズ監督(左)。© Universal Pictures

また、同じテーマでも、作る人が変われば角度や突っ込まれ方が変わります。「風と共に去りぬ」が人種差別を肯定するものだという批判は、最近も再燃したばかりですが、まったく同じ時代の南部を黒人監督が語ろうとしたら、非常に興味深いことが起きるでしょう。昨年も(日本公開は今年)、奴隷制度について「ハリエット」という優れた映画が誕生しています。監督は黒人女性のケイシー・レモンズ。

 

昨年はほかに、これまで黒人以上に影に隠れてきたアジア系においても、中国生まれの女性監督ルル・ワンが「フェアウェル」という映画を作り、評価されるという出来事がありました。これまた、彼女でなければ語ることができない話です。

『フェアウェル』を監督したルル・ワン監督。主演を演じたオークワフィナは、本作でアジア系女優史上初となるゴールデングローブ賞主演女優賞 (ミュージカル・コメディ部門)を受賞した。photo by Elias Roman_R

それらのストーリーや思いは、昔からずっとあったもの。これまでは語らせてもらえるチャンスを与えられなかっただけのことです。「#MeToo」「#TimesUp」「#BlackLivesMatter」などの運動が立て続けに起こった近年になって、ようやく、これまで抑圧されていた人たちが声を上げるようになってきたのです。そういう声の持ち主には、聞く側のほうからも、積極的に発言の場を提供しなければなりません。意図的に努力しなくてもみんなの声が平等に聞かれるようになるまで、「黒人だから」「女性だから」は、多くの分野で優先されていかなければならないのです。

<作品紹介>

『ハリエット』

 

1849年アメリカ、メリーランド州。農場の奴隷ミンティ(シンシア・エリヴォ)は、幼いころから過酷な労働を強いられていた。そんな彼女の願いはただ1つ、いつの日か自由の身となって家族と共に人間らしい生活を送ること……。生涯で800人以上の奴隷解放を手助けし、南北戦争では黒人兵士を率いて戦った奴隷解放運動家、ハリエット・タブマンの激動の人生を描く。
DVD発売:11月06日 3,618円+税
発売・販売:NBCユニバーサル・エンターテイメント

『フェアウェル』

© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

NYに暮らすビリー(オークワフィナ)と家族は余命わずかな祖母への告知を巡り対立する。彼女たちが選んだ答えとは……?全米で公開時わずか4館からの大ヒットとなった話題作。10月2日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。配給:ショウゲート 


猿渡由紀
L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『週刊文春』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイ、東洋経済オンラインなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

構成/榎本明日香

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