SNSで発信したり、本を読んだり、読むこと・書くことが好き、もっと文章力を身に付けたい!という方は多いのではないでしょうか。

〔ミモレ編集室〕オンライン編集講座、5回目のテーマは「良い文章とはなにか」。
ヒット作を多数生み出した新書編集者による一風変わった文章講座の様子を、編集室メンバーのマイがお伝えします。

 


●文章は「体臭」のようなもの


今回の講師は、バタやんさんの同期(!)でもある講談社の第二事業局局長川治豊成さんでした。

バタやんさんから「良い文章とはいったい何?」と問われた川治さん。
その答えは……

「講談社現代新書」シリーズの編集に長年携わり、福岡伸一『生物と無生物のあいだ』など数々のヒット作を世に送り出してきた川治さん

「わかりません」――ええっ?でもそれには理由があって。

曰く、「文章には書いた人固有のニオイみたいなものが漂っている。ニオイの好みは人それぞれ」だから、絶対的に“これが良い文章”というものはないと。

「体臭」が強い典型例は、小説。薄い例は、論文や新聞記事だそう。
そう言われると分かるかも。読む時にこの「ニオイ」を感じてみるのも面白そうですね。


「どんな人にも体臭はある。もし100人中99人が悪文だと言っても、1人でもそれを素晴らしい文章だと思ったら、それはやっぱり良い文章なんだと思う」と川治さん。
「1人でも届けば」というスタンスなら、自分の良さを素直に出せるような気がしてきました。


川治さん自身は、この「体臭」は強い方が良いと思っているとのこと。

そこでメンバーから出た質問が、「どの程度まで『体臭』を自分の個性として出していいのか?」
 

85万部超えベストセラー『生物と無生物のあいだ』。科学の本とは思えない情緒ある文章に、理系の本を全然読まない私でも引き込まれました

これに対しては、「体臭とはそもそも調整が効かないもの」というお答え。
「作為的につくれないものが滲むのが文体であって、あざといと鋭い人にはバレる」と川治さん。

むむ、なるほど。今まで積み重ねてきたもので勝負するしかないのかも。


●良い文章は読まなくても分かる!?


文章が「体臭」のようなものだとすると、「良い文章は読まなくても分かる」(!)と川治さん。

「文章の意味を理解する前の段階で、ページをパッと開いた時や、ぼんやり見ている時に、ビジュアルで」だいたい分かるんだそう。

「絵みたいなもので、白と黒のバランスで分かる。この原稿良さそうだなあとか、なんか読む気が起きないなあとか」

おお~さすがプロって感じ!

でも実は、私たちも似た感覚を持っているそうで。
書店で本を選ぶ時、パラパラとページをめくってみた印象で「面白そう」「読んでみたい」と思ったから買うということ、ありますよね。

この「パラパラと見たときの印象」で、どれだけ書き手の配慮が行き届いているかが分かるんだそう。

川治さんが、ご自身に関するちょっと答えづらい質問を受けた時に「バタやんが答えてよ(笑)」なんて仰る場面も。同期ならではのやりとりにニンマリ

実践に活かすなら、行間を効果的に入れたり、漢字と仮名のバランスを工夫すると良さそうです。

自分でも、書き上がったものをパラパラ~と見た時に「読んでみよう」と思えるか、気にしてみようと思いました。

勝負は読まれる前から始まっているんですね……!


この他にも、
・読み手は「書き手の目を通して見た世界」を見たい
・謎解きの面白さを入れる
・書く力は「筋力」
などなどのお話が。ムズムズと文章を書きたくなってきました……!(詳しくは、入会するとアーカイブ動画を見られます♪)
 

●「『むずかしい』は『やさしい』より確実におもしろくてたのしい」

 

最後に、司会の編集室コミュニティマネージャー・代さんから、「分かりやすいことを常に善しとするような昨今の風潮をどう思うか」と問われた川治さん。

「なんでもインスタントに、すぐ消化できるものを求める風潮はとても危険だと思っている。世界がそんなに単純なはずない」との鋭いお答え。

そこで川治さんが編集された『今を生きるための現代詩』(渡邊十絲子著)からご紹介くださったのが、「『むずかしい』は『やさしい』より確実におもしろくてたのしい」という言葉。

子どもだって“自転車は補助輪をつけて乗れればじゅうぶんだ”とは考えない。
「乗れたらたのしいから、ただそれだけの理由で」、その先へ進むのだと。


また、「分からないことをずっと抱えていて、ある時、もしかしたらこういう意味だったのかなと気づく。それは詩に限らず、世界に対峙するときの一つの構えだと思う」と川治さん。


うーん、確かに。人がほんとうに悩んだり求めたりしていることって、そんなに単純じゃないですね。

「川に笹舟を浮かべて流すような感覚」を持って本を世に送り出してきたという川治さん。「遠くの誰かが受け取ってくれたらいいな」

私自身、編集室内の発信で、まだ答えの出ていない“ちょっとした気づき”をつぶやいてみることがあります。

そうやって疑問を言葉にすることで整理したり、メンバーからコメントをもらうことで、思わぬ視点を得られることも。
でも、そこで答えが出なくてもよくて。頭の隅に置いておいて、またいつか、何かに繋がるかもしれない。

それでいいんだなと思いました。


単なる文章術に留まらない素敵なお話に心満たされ、この他にもベストセラー誕生までの裏話を聞けたりと、とても内容の濃い講座でした……!


講義の後は、懇親会タイム。

メンバーの感想を聞いてさらに理解が深まり、講師の川治さんへの質問も絶えず。(私も思い切って質問。嬉しかったです!)名残惜しいまま終わりの時間を迎えました。

参加メンバー次第でもっと盛り上げていけるのも、この〔ミモレ編集室〕の良いところ。皆さんもその輪に加わってみませんか?

マイさん

ミモレの提案する価値観が好き。キャリアの見直し中で、編集のお仕事にも興味があったので思い切って入会してみました。
好きなものは、アート、カフェタイム、ごろごろタイムなどなど。 最近はジェンダーや社会問題にも興味あります。


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