若い人にも多い、椎間板ヘルニア

 

また、それ以外の腰痛の原因には、比較的若い人にも多い病気として腰椎椎間板ヘルニアという病気も挙げられます。

背骨は、重い体を支える支柱でありながら、体幹のしなやかな動きも生み出さなければなりません。このしなやかさを出し、クッションの働きをしているのが、「椎間板」と呼ばれる構造です。

この椎間板は、椎体と呼ばれる頑丈な骨の間、間にサンドイッチされる形で挟まっていて、柔らかいジャムが中に入ったマシュマロのような構造をしています。普段はマシュマロの皮がしっかりとジャムを包んでいますが、何度も潰したり伸ばされたりを繰り返しているうちに、マシュマロの一部が破れてしまうことがあります。そうすると、中身のジャムがこぼれ出してしまいます。こぼれ出したジャムは、近くを走っている神経を圧迫してしまい、痛みを出すことになります。

ただし、この場合には、足に向かう神経が刺激をされるので、太ももや足の方にも痛みが出たり、痺れ、力が入りにくいなどの症状を出したりすることもあります。このような点で、筋肉から来る腰痛と区別していくことになります。
 

 

感染症、がんの転移、骨折、筋肉痛……、原因はどこにあるのか


この他に、腰の骨の感染症やがんの骨への転移でも同様の痛みが出ますが、実際にこうした原因が見つかるのは、腰痛を持つ方全体の1%にも満たない確率です(参考3)。

これらの場合、前者なら、発熱や悪寒といった症状が出たり、後者なら、意図しない体重減少などといった症状が出たりしますので、そこから区別していくことになります。

高齢の方の場合には、骨粗しょう症を背景とした腰椎の骨折というのもありえます。特に、転んだ後、尻餅をついた後から腰の痛みが出て、痛みがなかなかひかないという場合には要注意です。

腰痛が3ヵ月以上続き、慢性腰痛と呼ばれる状態になった場合には、筋肉痛以外の原因を考えていくことになります。ただし、筋肉痛の原因への対処がなされていない場合には、時間が経ってもよくなりません。例えば、仕事の姿勢が原因の場合、それが正されなければ、悪化の一途を辿ってしまうこともあり得ます。

明らかな原因なく、慢性的な痛みが続く場合には、脊柱管狭窄症と呼ばれる病気や、先にご紹介した感染症、関節に炎症を起こす病気など様々な病気の可能性を考え、検査を進めていくことになります。
 

腰痛の診断と検査。不要な検査は避けるバランス感覚が大切


腰痛の診断は、これまで説明してきたような腰痛の「ストーリー」を分析し、身体診察を追加することで行っていきます。病気の診断というと、「検査が必要なのでは」と思い浮かべる方も多くいらっしゃいますが、急性腰痛の場合には、多くのケースで検査は不要です。筋肉の傷を証明できるような血液検査や画像診断というのはなく、「ストーリー」が最も大切ということになります。

検査が必要になるのは、痛みが数週間以上続いている場合、痛みがとても深刻で休んでいても良くならない場合、痛みが足の方にまで広がっている場合、足の痺れや力の入りにくさを自覚する場合、意図しない体重の減少がある場合、発熱がある場合、転んだあとに痛みが続く場合などです。

これらの症状に該当する場合には、ヘルニア、感染症、骨折といった原因が考えられるため、X線検査やMRI検査などを行う必要があります。

よく「がんや骨折が心配なので、X線だけでも撮ってください」と頼まれることがあります。ですが、30代や40代で骨折するということは、よほどの事故にでも遭わない限りは考えにくく、むしろX線によって不要な被曝を受けることになってしまいます。また、がんはX線では分からないことが多く、まずは症状を振り返ってみることこそが大切です。

そして、繰り返しのX線検査やCT検査による被爆こそ、発がんのリスクになりえます。一つ一つは小さくても、積み重ねでリスクは大きくなります。必要な時には躊躇せず検査を受けることが大切ですが、不要な検査は避ける。そのバランス感覚がとても大切です。
 


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