茶番みたいな自民党総裁選とそれにまつわるあれやこれやがもう本当にうんざりで、ずーっとネトフリ廃人になっていた私ですが、「とはいえ、いい加減世の中について少しは考えたほうがいいんとちゃうか……」と思い、社会復帰してみたら「菅新首相はパンケーキが大好き」とか「”スガちゃんまんじゅう”バカ売れ」みたいなニュースがザクザク出てきて驚きました。「今日の晩ごはんなんにしよ」程度には真剣に「これらの情報をニュース番組が公共の電波使って流すことの公益性」について考えてみて、ブームを作り出すことでコロナ禍で苦境にある和菓子屋さんとかパンケーキ屋さんとかが一息つける……みたいな結論に至ったわけですがーーまあ個人的には「スガちゃん」を自分の口に入れたいとは思いませんが。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

そんなわけでテレビの世界は猫も杓子も「スガちゃんかわいい推し」。誤解を恐れず言えばって前置きするのもアホらしい、まんま捉えていただいて構いませんが、私が若い頃の政治家って「妖怪風味」のビジュアルの人ばっかり、「カワイイ」なんて形容はーーナチュラル・ボーン・ヨーダそっくりの宮沢喜一を除いてーーありえなかったわけですが、まあ昔から「流行のカワイイもの」=ウーパールーパーもキャベージパッチキッズもキモいとしか思えなかった私が、「果たしてスガちゃんは、カワイイのか、キモイのか」を考えても意味がありません。というわけで今回は、世の中に溢れている「カワイイ」の意味合いを考えようかと思った次第です。

 

「カワイイ」を巡る人間関係は言うまでもなく、「(カワイ)がる側」と「(カワイ)がられる側」がいるわけですが、まれに存在する悪魔的な「がられる」天才みたいな人を除けば、概ね「がる側=支配・保護」と「がられる側=被支配・被保護」の関係と言い換えることもできます。どんな生物であれ赤ちゃんがカワイイのは、「なんとかしてあげなきゃ」と思ってくれる存在がいないと生きていけないから。つまり「カワイイ」の特殊性は、「支配」や「保護」を誘う幼児性と不可分であること。「”がられる側”は”がる側”を攻撃しない、反抗しない」ってこと、「がる側」と「がられる側」が対等でないってのもあるかもしれません。
「一人では生きていけない」と思う人が生存戦略として「がられる側」を演じるのも、「可愛くない」と言う言葉で相手の言動を縛り、支配し続けようとする「がる側」がいるのも、その裏返し。

そうした他人の反応が顕著に出たのが、USオープンでBLMに関する行動を起こした大坂なおみ選手のパターンです。2年前、テニス界に彗星のように現れた大坂選手が「カワイイ」と言われたのは、多くの日本人が彼女のカタコト日本語を、極めて表面的に「子供みたい」と受け止めたから。そうやって「がる側」で上に立った人たちが、彼女の政治的行動に「カワイイと思ってたのに」ーーさらに言えば「かわいい=生意気な言動はしない」という極めて日本人的価値観と、彼女が黒人であることを化学反応させてーー裏切られた、と思ったんでしょう。もちろん、十代の頃から世界中を連戦し、「強さ」にこそ価値を見出す世界に生きる身長180cm超えの彼女が、「日本のファンにカワイイと思われたい」なんて思っているはずがない、ってことにはお構いなしで。(彼女は実際、ツイッターでも「私をイノセントの枠にハメないで」とつぶやいてもいます)

これをダメ押し的に証明したのが、彼女のスポンサーである「カップヌードル」が、今回のUSオープンに際して出した応援広告です。


「Haungry to win(勝利に貪欲)」というコピーに、口元を引き締め前方を見つめる大阪選手のビジュアル、そしてそこにかぶさる彼女の言葉はーー「原宿に行きたい」。一瞬そのつながりが全くわからないこの広告、バーン!としたステーキにかぶりついたらそっくりさんのコンニャクだったとか、爆弾処理班がバリ緊張して爆弾開けたらヒヨコ出てきたとか、そんな感じの腰砕け感。そしてツイートにはこんな言葉が。

「ついに始まるグランドスラム!どんな応援をすれば大坂なおみ選手の勝利に貢献できるのか色々と考えた結果、大坂さんのことを好きになってもらえたら勝ちだなという結論にたどり着いたので、かわいい情報を置いておきます。」

ちなみにこの言葉は、2年前の全米オープンテニスで初優勝した時の日本での凱旋会見で言ったもの、大坂なおみ「カワイイ絶頂」の発言です。つまりその後2年間の彼女の選手として人間としての成長は完全に無視されているわけですね。10年ぶりに偶然会った元恋人に「俺がいないと何もできない、今もそんなカワイイなおみなんだろ」とか言われた感じでしょうか。ご本人はどう思うかわかりませんが、私だったら、背筋ゾワッときて、マジで勘弁…とか思って、こうした偶然が二度と起こらないよう最新の注意を払って残りの人生過ごすはず。

私はこのスポンサーを一方的に攻撃したいわけではありません。言いたいのは、彼らが(おそらく忸怩たる思いで)そうした理由に、人を支持する時に「かわいさ」を重視している日本人がめちゃめちゃ多いという判断があった、ということ。本来「かわいさ」なんて全く必要とされない人にまで。大阪選手は無論、そして国を引っ張る首相選びにまでも。

政治家がタレントよろしく「人気商売」であることは否定しませんーーもしそれが商売であるなら、そうなんでしょう。今の日本で人気商売をするなら、「カワイイ」は最大の武器なのかもしれません。なんたって「カワイイ」は、周囲に「私が支えてあげないと」と思わせ、いたわらせ、気遣わせ、失敗も悪事も「仕方ない」と飲み込ませることのできる、魔法のようなもの。ひょっとしたら、政治家こそ喉から手が出るほど欲しいもの。そりゃ「いい年こいた大人が、カワイイとか言われて喜んでるとか恥ずかしいだろ」というような、まともでマチュアな感覚は邪魔なだけ。悲しいかな。

だからこそ今一度、私達のほうが考えなければいけません。そもそも政治家に「カワイイ」なんて必要?ってことを。

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