「私に売れない家はありません!」の台詞でお馴染みのドラマ『家売るオンナ』を地で行くリアリティショーがあります。Netflixで独占配信中の『セリング・サンセット ~ハリウッド、夢の豪華物件~』です。天才的不動産屋の三軒家万智に勝るとも劣らない美貌を持つ敏腕エージェントたちがロサンゼルスの豪邸を売りまくる姿は圧巻。実生活まで赤裸々に映し出されるのも本作の見どころとあって、華麗なるキャリアとドロドロな人間関係に忙しい彼女たちに目が離せません。

Courtesy Netflix
 


数億円の豪邸を売りさばく元モデルたちの悔し涙


瞬く間に人気番組へ上り詰めているNetflixのリアリティショー『セリング・サンセット』の舞台はロサンゼルスで億単位の物件を扱う最大手不動産仲介会社「オッペンハイム」です。そこで働くバリキャリ女性たちが主役を飾ります。家売るオンナたちの仕事とプライベートを追いかけたシーンのどこを切り取っても華やかかつ熾烈。センセーショナルな展開で突っ走りながら、2019年5月にNetflix配信デビューしてから既にシーズン3まで作られています。

Courtesy Netflix

この番組の憎いところは何と言っても登場人物と視聴者のギャップの埋め方にもあります。まずはそのギャップの大きさから説明すると、例えばアラフォーの美魔女、メアリー・フィッツジェラルドはこの道のキャリア10年以上のベテランでトップ中のトップエージェント。抜群のビジネスセンスで次々と数億円の豪邸の取引を決め、1物件につき数千万円以上の報酬を手に入れていきます。そんな彼女はプライベートも充実っぷりを見せてくれます。バツ2で成人の息子を持つシングルマザーの顔を持ち、現在のお相手は一回り年下のイケメンモデル。このプロファイルに親近感を持つ人は滅多にいないでしょう。それなのに一歩譲ってメアリーだけならまだしも、他のエージェントメンバーもこれに続いていきます。

メアリー・フィッツジェラルド。Courtesy Netflix

バービー人形のようなルックスでハイブランドを身に纏うクリスティン・クイン、元女優のクリシェル・ステュース、元モデルのダヴィーナ・ポトラッツ、そしてやっぱり元モデルのヘザー・レイ・ヤング、イスラエル出身の才女マヤ・ヴァンダーと揃いに揃っています。そんな仕事もプライベートも完璧な彼女たちが遠い存在に思えるだけでは、番組の魅力は半減するばかりですが、彼女たちがふと見せる悔し涙に価値あり。どんな生き方でも誰でも何かを乗り越えようとする時は弱さと強さが詰まっているものです。その瞬間にも迫る場面がぐっと距離を縮めてくれるのです。巧みな見せ方にまんまとハマってしまうでしょう。

メアリー・フィッツジェラルド、クリスティン・クイン、ヘザー・レイ・ヤン。Courtesy Netflix


ハリウッドセレブ御用達物件から離婚劇まで追う番組


『セリング・サンセット』を夢中にさせるもうひとつの理由もあります。それはほぼ全てがリアルであるということ。登場人物はもちろん実在する人、紹介される物件も現実の不動産市場に出回っているものです。ロサンゼルスを一望できる場所に位置する豪邸はその住居をぐるりと巨大プールが取り囲む高層物件で、価格は40億円超といった具合にバーチャル内覧が楽しめます。時に最終的な買値も、その取引の裏側も見せることもあり、ハリウッドという好奇心がそそられるエリアの不動産事情が垣間見えるのです。

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【画像】『セリング・サンセット』に登場する超豪邸を内見!>>


不動産仲介者オッペンハイムの顧客にはハリウッド俳優のオーランド・ブルームなどセレブの名前が挙がっています。番組では実際の顧客も登場します。Netflixでこれまた人気のあるリアリティショー『クィア・アイ』に出演するカラモ・ブラウンが内見するエピソードも見せてくれます。

そして、世間のゴシップニュースに上る話が番組でも扱われます。元女優のクリシェル・ステュースのプライベートに迫るエピソードはその最たるもの。アメリカで人気を集めるドラマ『THIS IS US』に出演するジャスティン・ハートリーが夫という事実のままの設定で登場しますが、既に発表されている通り現在、2人は離婚しています。その離婚を巡って、クリシェル視点で明け透けに彼女の人生を追う話も描かれているのです。

どの話もあまりにもドラマチックなため、ビジネスも人生もそのうちどこまで本音で、どこまで脚色されているのかといった噂話も尽きず。真相はどうであれ、時に上品に時に下世話に楽しませる力のある番組であることは間違いなしです。


前回記事「スペイン発『ペーパー・ハウス』が神ドラマと称される理由とは?【好み別ドラマナビ】」はこちら>>

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

ライター 渥美 志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。yahoo! オーサー、コスモポリタン日本版、withオンラインなど、ネット媒体の連載多数。食べること読むこと観ること、歴史と社会学、いろんなところで頑張る女性たちとイケメンの筋肉が好き。寄稿中の連載は、
「yahoo!ニュース」『アツミシホのイケメンシネマ』
「COSMOPOLITAN」日本版『女子の悶々』
「COSMOPOLITAN」日本版『悪姫が世界を手に入れる』
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ライター 山本奈緒子
1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『FRaU』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。

 
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