こんなに毎回捕まるのは、ピーチ姫と沙織お嬢様と瀬戸康史くらい


そんな徹頭徹尾くだらないコメディでありながら、華と和馬の恋は大真面目。イタリア街を思わせる華やかなロケーションと、キラッキラの照明で、ふたりの恋をロマンティックに演出しています。

『ルパンの娘』第1話より。©︎フジテレビ

一応、ロミオ=瀬戸康史、ジュリエット=深田恭子だとは思うのですが、毎回犯人に捕まる和馬と、それを助けるために敵のアジトへ乗り込む華を見ていたら、むしろ瀬戸康史ヒロイン説を唱えたい。こんなに毎回敵に捕まっているのは、ピーチ姫と沙織お嬢様と瀬戸康史くらいです。

 

運命に翻弄され、一度は別れを選びながらも、泥棒と警察という枷を乗り越え、ついに結ばれたふたり。ところが、第2期の第1話では、捜査一課の刑事になるという和馬の夢を壊してしまったことに罪悪感を抱える華が自ら別れを選択。どうやら新シリーズでも想い合っているのに結ばれないふたりの恋に胸引き裂かれる展開が待っていそうです。

『ルパンの娘』第1話より。©︎フジテレビ

ストレートに言って、このドラマ、合わない人には絶対合わないと思います。だから決して無理強いはいたしません。けれど、合う人にはめちゃくちゃたまらないのが『ルパンの娘』。くだらないコメディが好き、何も考えずにとにかく笑いたいという方は、木曜の夜は『ルパンの娘』一択です。


『ルパンの娘』が教えてくれる「正しさ」より大切なこと


そして、最後に付け加えるなら、決してヒット作とは呼べない『ルパンの娘』がこんなにも早くシリーズ化したのは、コロナ禍の今に『ルパンの娘』が必要だったからのように思えてなりません。

「自粛警察」という言葉が飛び交う通り、他者を監視し、少しでも自分のルールに反する行為を見つけたら執拗に攻撃する現象が、この1年は多く見られました。それは、コロナだけに限りません。うんざりするような不倫報道だったり、数々の炎上騒動だったり、正義という名を借りた行き過ぎた制裁行為に、多くの人が疑問を持ちはじめている気がします。

もちろん他人を不用意に傷つけるようなことはしてはならないし、社会の一員として規範を守ることは大事。だけど、「正しさ」がどんなときも何にも勝るものかと言えば、僕はそうは思えません。

心の弱っている人にいくら正論をぶつけても、何の解決にも救いにもならないように、「正しさ」以上に「優しさ」や「面白さ」が必要なことも、人生にはあるのではないでしょうか。

『ルパンの娘』第1話より。©︎フジテレビ

泥棒一家のLの一族は、法律的に見ればまったくもって正しくありません。いくら義賊と言えど、華たちのやっていることは犯罪行為。本来ならきちんと罰を受けなければなりません。だけど、Lの一族を見てそんなふうに目くじらを立てる人はいない気がします。

警察官である和馬が華を愛し、庇うこともまったく正しくありません。だけど、その不正を糾弾するよりも、そんな華と和馬の恋を応援したい人の方がきっと多いはず。

暴走する正義感に息がつまりそうになる現代社会で、「正しさ」よりも大切なことを教えてくれるから、『ルパンの娘』は観る人の心を爽快に湧かせてくれるのかもしれません。

<作品紹介>
『ルパンの娘』

 
『ルパンの娘』第2話より。©︎フジテレビ

2019年夏に放送され「ばかばかしいのになぜか最後グッとくる」とコアなファンを多数獲得したアクションラブコメディの続編。三雲華(深田恭子)は、泥棒一家“Lの一族”の娘である自分といては警察官の夫・和馬(瀬戸康史)の人生を狂わせてしまう、と別れを決意。一方の和馬は愛する人を失い、このまま警察官を続けていいものか悩んでいた。そんなある日、Lの一族は新たなお宝を発見。さらに和馬の勤める警察署の管内では女性の連続失踪事件が発生し……。 フジテレビにて毎週木曜22:00~放送中。


文/横川良明
構成/山崎 恵

 


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1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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