もう一つご紹介するのは、佐賀県に本拠地をおく認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」です。

難病根絶のために優秀な人材が必要


「リモート採用をはじめたきっかけは団体の収益が下がってきて、このままでは絶対にゴールにたどり着けないと感じたことでした」と語るのは、事務局長の岩永幸三さん(写真下)。

こちらの団体は「“不治の病”1型糖尿病の根絶(=根治+治療+予防)」をゴールに掲げて活動しています。

 

1型糖尿病は、主に自己免疫の状態によって引き起こされる病気です。現在の医療では、膵臓又は膵島の移植を受けるか、生涯にわたって毎日数回のインスリン注射、またはインスリンポンプと呼ばれる医療機器による注入を続ける以外に治療法はありません。

 

一般に糖尿病として認知され、国内の糖尿病患者の9割以上を占める2型糖尿病と異なり、インスリンの補充が一日たりとも欠かせない病気で、子どもに発症することが多く、日本では年間10万人あたり1.5~2.5人の確率で発生する原因不明の難病です。

治療を厳密に行わないと心臓、腎臓、眼、神経等の合併症が出るので、患者本人の苦痛はもとより、患者家族にとっての精神的、経済的負担は多大なものとなっています。日本IDDMネットワークでは、1型糖尿病研究基金を設立し、1型糖尿病の根絶を目指す研究への助成等を行っています。

 

こうした日本IDDMネットワークの活動を支えるのが個人や法人からの寄付です。1型糖尿病根絶という大目標を掲げながら、団体の人員不足もあり、なかなか思うように資金が集まらない時期が続いたと言います。

「なかには『夫に“俺が帰ってきた時にはご飯を作っておけ”といわれた』というようなパートナーの理解不足や、子育てとの両立がネックとなって辞めていった職員もいました。自分たちのミッション達成のためには働き方や人材のあり方をアップデートする必要性を感じました」

実は事務局長の岩永さんは佐賀県庁の職員でもあります。
「佐賀県庁は2008年から在宅勤務を導入していまして、テレワークが非常に浸透しています。男女参画・女性の活躍推進課に勤務した経験もあって、リモートで場所にこだわらずミッションに共感してくださる優秀な方に活動に加わってもらえたら……と考えるようになりました」


オフィス勤務の職員は2名のみ。「2025年の1型糖尿病根治」を目指す


現在9名いる職員のうち事務所に通勤しているのは2名のみ。ほかはすべてリモート勤務だそう。居住エリアも東京、関東近郊、九州各地とさまざまです。働き方も週5フルタイムの職員は1名だけで、週1勤務の職員や1日3~4時間勤務の職員など多様です。

「働き方が自由だからということでしょうか、優秀な人が集まってくれて…日中は事務局長不在が常態で『奇跡のNPO』と呼ばれています(笑)」

職員全体のコミュニケーションはメールとチャットが中心。必要に応じてZoomで会議を設定しています。一体感を高めて事業を推進するために、最近リモートならではの工夫も取り入れ始めました。

「週1回、職員向けに10分程度の動画配信を始めました。私はメールの口調が厳しいので誤解を生みやすいと職員から指摘されまして……。リモート中心の組織で直接顔を合わせるのは採用面接のときと、年数回の理事会や事業計画ミーティングのときくらいですから。さらに新型コロナウィルス感染症拡大の影響で対面がほぼなくなりました。この組織はどういうゴールに向かって、どんな想いを持って活動をしているのか。私の言葉で話しています。職員からは、活動のひとつひとつが全国の1型糖尿病の患者とその家族を支えることにつながっていることにやりがいを感じると言ってもらっています。みんなで力をあわせて、まずは『2025年の1型糖尿病根治』をなんとしても成し遂げたいと考えています」

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リモートワークと聞くと、首都圏の一部の企業の働き方…という印象を持たれる方がいるようです。しかしながら、地方の企業(団体)のなかにも戦略的にリモートワークを取り入れるところが生まれてきています。企業にとっては優秀な人材と出会う機会が広がりますし、個人の生き方の選択肢も広がります。リモートワークが浸透することで、働く場所の自由度は極めて高くなります。どんな場所に住んで、誰と、どんなふうに働きたいか? 改めて考えてみてもいいかもしれません。

前回記事「駐妻に新需要!?コロナ禍で注目を集める「インサイドセールス」とは」はこちら>>

 
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