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【紀子さま秘話】納采の儀の晴れ着に込められた美智子さまの思い

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秋篠宮家の創設30年、いよいよ「立皇嗣の礼」


11月8日、秋篠宮さまが皇位継承第1位の「皇嗣」になられたことを内外に広く伝える「立皇嗣(りっこうし)の礼」が行われました。当初は今年4月に行われる予定だったこの儀式、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期されていたのです。

1990年に天皇家の次男、礼宮(あやのみや)さまが紀子さまと結婚されたのを機に、秋篠宮家は創設されました。それから30年の月日がたち、このたびの儀式を迎えることとなったのです。

1995年10月、栃木県にて。写真/講談社

30年前のご結婚の日、秋篠宮さまは25歳、紀子さまは24歳。初々しいご夫婦の誕生は国民を驚かせる明るいニュースとなりました。何しろすべての皇族の中で、自分で結婚相手を見つけて直接プロポーズをした男性は、礼宮さまだけだったのですから。

では、時計の針を巻き戻して、礼宮さまと紀子さまの恋のお話をいたしましょう。

 

初恋のお相手は礼宮さま


信号待ちをしながら、礼宮(秋篠宮)さまが紀子さまにプロポーズをしてから3年後。1989年9月12日に行われた皇室会議で、ご婚約が内定しました。そして、その日のうちに礼宮さま同席のもとで記者会見が行われました。

昭和天皇の喪中の最中とあって、紀子さまは濃紺のワンピースにパールのネックレスというシックな装いです。その清楚なたたずまいは、むしろ若々しさを際立たせるものでした。

記者たちがお二人の出会いについて尋ねます。
「初恋ですか?」
という質問に、紀子さまは礼宮さまをご覧になり、
「申し上げてもよろしゅうございますか」
と礼宮さまの許しを得て、こう答えました。
「はい、そうでございます」
はにかみつつゆっくりと話される可憐な笑顔。昭和天皇の崩御から平成に代わり、初めての明るいニュースでした。

「3LDKのプリンセス」に届いた豪華な振り袖

写真/JMPA

やがて年が明け、1990年1月12日には一般の婚約にあたる納采の儀が執り行われました。場所は紀子さまのお住まいである東京・目白の学習院職員住宅。職員住宅から天皇家に嫁がれることから、紀子さまは「3LDKのプリンセス」と親しみを込めて呼ばれました。

その日の紀子さまは、薄桃色の地に貝合わせをイメージした紋様の手描き友禅の振袖という晴れ姿です。宝箱の中のハマグリは、二枚の貝がピッタリ合うことから、「お相手はお一人だけ」という意味合いを表わし女性の貞操の象徴とされています。
振袖には波頭で斜めに道長取りした紋様に梅の花が散りばめられ、肩にはおめでたい松があしらわれています。

写真/JMPA

この振り袖は、美智子さまがご自分で選んで京和工芸にご注文されたもの。私が御用を承った京和工芸の専務に取材をすると、
「てっきり清子(さやこ)さま(美智子さまの末の娘)のものと思い込んでいたところ、届け先が学習院職員住宅だったため、ほんとうに驚きました」
と話してくれました。
このような美しい晴れ着が届いたときの紀子さまの喜びはどれほどだったことでしょう。

当時、日本テレビのチーフプロデューサーをしていた私は、京和工芸に交渉して同じ振袖をショーウィンドウに飾ってもらい、おめでたい晴れ着を生中継で紹介したのです。

そのころ美智子さまは、このような御歌を詠まれています。


嫁ぎくる人の着物を選びをへ 仰ぐ窓 とほき夕茜雲(ゆうあかねぐも)

結納の儀式で着る息子の花嫁の着物の柄を選んで、初めて嫁を迎える幸せをかみしめている美智子さまのお姿が目に浮かぶような、やさしい御歌です。

写真/JMPA

帯は当時の皇后良子(ながこ)さまより、若き日の美智子さまが納采の折に拝領した唐錦菊様紋の丸帯。先の皇后さまよりご伝来の品を譲り渡すほど、美智子さまは嫁いでくる紀子さまをいとおしく思われていたのでしょう。
3人のお子さまの中で、初めてのご結婚を迎えることになって華やいでいられる美智子さまのご様子が伺えます。

紀子さまブームになった可憐な笑顔
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①、② 写真/講談社
③〜⑨ 写真/JMPA

渡邉みどり(わたなべ・みどり)

皇室ジャーナリスト、文化学園大学客員教授。早稲田大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。1980年、「三つ子十五年の成長記録」で日本民間放送連盟賞テレビ社会部門最優秀賞。1989年の昭和天皇崩御報道ではチーフプロデューサーを務める。著書に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』(こう書房)、『美智子さま 美しき人』(いきいき)、『美智子さまの生き方38』(朝日文庫)など、監修に『とっておきの美智子さま』(マガジンハウス)、『美智子さま あの日あのとき』『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』(ともに講談社)など多数ある。

文/高木香織

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