『愛の不時着』から始まった韓国ドラマ再ブームに、世界的な人気を誇るBTS、アカデミー賞を獲得した『パラサイト 半地下の住人』……「Kカルチャー」が盛り上がりを見せる中で、映画化も話題の『82年生まれ、キム・ジヨン』をきっかけに、じわじわと盛り上がりを見せているのが「K文学」ブーム。
今回は、その仕掛け人とも言える、出版社「クオン」の代表で、出版エージェントでもある
金承福(キム・スンボク)さんにインタビュー。娯楽作品であってもエンタテインメントのみに終わらないその面白さとは、Kカルチャーの力の秘密はどこにあるのか、『82年生まれ、キム・ジヨン』以外にもあるおすすめの作品などについて、話を伺いました。

『キム・ジヨン』は、韓国文学界の「ヨン様」になると思った

 

2015年にオープンした神保町の「CHEKCCORI(チェッコリ)」は、韓国の書籍を中心に扱う神保町の書店。その母胎である「クオン」は日本で韓国の書籍の出版と紹介を担う出版社です。代表のキム・スンボクさんは大学留学をきっかけに来日し、2007年に同社を立ち上げました。

 

キム・スンボクさん(以下、キムさん):私が来日した91年当時、日本には韓国の文化を伝えるものはあまりなかったんです。2002年のワールドカップ共催を経て、2003年に「冬ソナ」で韓流ブームが始まった時は本当に嬉しかったんですが、その時に「次は文学がくるな」と。そのタイミングが今なんだと思います。

その読みは見事に当たったわけですが、もちろんそれは単なる勘ではありません。「文化の流れで最後にくるのが文学」というのは、彼女自身が韓国で体験していたことでもあります。

キムさん:私は日本のサブカルに親しんで育ちました。幼い頃は『キャンディ・キャンディ』や『マジンガーZ』などのアニメを見ていたし、高校時代は日本語が読めないながらも雑誌「non・no」が大好きだったし。そういう経験を経て、80年代後半くらいからは日本の文学ーー村上春樹、吉本ばなな、江國香織を読むようになったんです。

K文学が日本で受け入れられた理由をキムさんに尋ねれば、よく考えたら当然の答えなのですが「面白いから」。じゃあ、なぜK文学は面白いのかーーその答えは後にさておき、「K文学の仕掛け人」としてのキムさんがその嗅覚で選んだ作品には、『82年生まれ、キム・ジヨン(以下、キム・ジヨン)』以上の大ヒット作品も少なくありません。

映画化もされ(韓国では2019年公開、日本では現在公開中)、韓国で130万部、日本でも20万部を突破。(2020年10月時点)『82年生まれ、キム・ジヨン』 チョ・ナムジュ (著), 斎藤 真理子 (訳)

キムさん:『キム・ジヨン』は、韓国文学界の「ヨン様」になると思いました。きちんと計算された文学なのに、文学文学しておらず読みやすい。キャラクターが生きたドラマみたいな感じで、大衆に受け入れられ共感を集められるーー韓国ドラマを一気に広めたヨン様のように、韓国文学を広めてくれる作品になるだろうなと。それで私も日本の出版社に何社か売り込んだのですが、残念ながら成約はしませんでした。ただ文芸に強い筑摩書房から出たことは、韓国文学のファンの裾野を広げるという意味でも良かったと思います。

売るためのコツは、面白い作品が見つかったら、ハマりそうな出版社を選んでピンポイントで提案すること。イラストエッセイ『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン著, 吉川南訳)も「ワニブックスから出るとたくさんの読者に届きそうだな」と思って提案し、売上部数は40万部。担当編集者が作品に惚れ込んで翻訳出版に漕ぎつけ、版権仲介を務めた『アーモンド』は昨年の本屋大賞・翻訳小説部門第1位を受賞し、20万部売れています。

2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位を獲得。韓国で40万部突破し、13ヵ国で翻訳出版されている。(2020年10月時点)『アーモンド』ソン・ウォンピョン(著)、矢島暁子(訳)

キムさん:40代の女性にオススメするのは、レズビアンの娘を受け入れていく母親が主人公の『娘について』ですね。立場の違いで異なる思いを描いているので、母親の気持ちも娘の気持ちもわかる年代の女性にはきっと響くと思います。

韓国文学の新シリーズ「となりの国のものがたり」第2弾。『娘について』キム・ヘジン (著)、古川 綾子 (訳)
 
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