ネクタイの範囲で異変を感じたら心疾患を疑うべき

 

私が倒れたのは「冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症」でした。
文字通り、心臓に血液や栄養を送っている冠動脈がけいれんして急に縮み、酸素も心臓に供給されないため虚血状態になります。
これは夜間の睡眠時や明け方の安静時に起こりやすく、突然死にもつながる恐ろしい病気。しかもけいれんは瞬間的に起こり15分程で収まることが多いので、病院にいって心電図検査をしても見つかりにくいのです。

 

原因は喫煙、不眠、過労、飲み過ぎ、ストレスとお決まりの要素が並ぶのですが、明らかではありません。
入院した急性期病院では、原因を調べるため「心臓カテーテル検査」をしたところ、血管に問題はないけれど、ストレスによって冠動脈が過剰に収縮することが判明しました。
日々のストレスや、倒れる1年間に母が他界し、闘病や葬儀などを巡る親族との軋轢で、心労が蓄積していたと推測しています。人生のエトセトラが降りかかってくるお年頃。頑張りすぎが心臓に負担をかけているかもしれませんので、要注意です。

私は心疾患で倒れたのは青天の霹靂と思っていましたが、振り返ってみると思い当たる予兆はありました。倒れる2週間ほど前から、朝ドラを見ている時に限って胸がズキズキ痛む謎の現象に襲われていたのです。
再放送『おしん』の旦那や姑のモラハラがストレスになっていると勝手に思っていました(苦笑)。でも、これこそがサインでした。

「心疾患では100%とは言えませんが、予兆があるほうが多いです。一般的には1ヵ月以内に胸になんらかの自覚症状があると言われていますが、1、2週間前から数日前が特に注意。
のど、あご、胸、みぞおち、お腹周りまでのネクタイの範囲に、つまった感じ、圧迫感、痛みが数秒から十数分続きます。特に起きやすいのは交感神経が優位になり、血圧があがってくる朝方。

もしも、これらの典型的な症状が1回でもあれば、早めに医療機関に足を運んでおくべきです。がんであれば1日放置しても死にませんが、心臓はそうはいきません」
と、循環器内科の主治医。

しばしソファーに横たわっていると痛みが収まるのと、心臓は左側という思い込みで、私は心疾患を疑いませんでした。ですが心臓はほぼ胸の真ん中にありやや左に傾いているだけ。医療ライターなのにそんなことさえ知らなかったとは、お恥ずかしい次第です……。

心臓の異変を察知して検査を受けていれば、原因に応じて、血液の流れをよくする薬や血管を拡張する薬などの治療で、未然に防げた可能性は高いです。「自分だけは大丈夫!」という油断は大敵です。

急性期病院に運ばれた私がどんな治療を受けたかは、また次回。

『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
熊本美加・著 上野りゅうじん・漫画 鈴木健之・監修 1320円 講談社

毎年の健康診断では「問題なし」だったアラフィフの医療ライターが、ある朝、山手線で心肺停止に。予兆はなかったのか? その時、生死を分けたものとは? その後、高次脳機能障害となるもリハビリを経て仕事復帰するまでをまとめた「蘇りルポ」をコミック化。主治医の監修付きで実用書籍にしました。自分と大切な人のために、読んでおきたい一冊です。

文/熊本美加
構成/片岡千晶(編集部)
この記事は2020年11月20日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。

 


・第2回「電車内で心肺停止…脳の機能障害になった女性医療ライターの入院&治療ルポ」>>

・第3回「心肺停止、脳障害から蘇った医療ライター「倒れた後の入院&治療のリアル」」>>

・第4回「山手線内で心肺停止から蘇った医療ライター「留守番の猫は?退院後にした3つのこと」」>>

・第5回「心肺停止から蘇った医療ライター「仕事復帰までの道のり、退院後の生活で困ったこと」>>

 

 
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