ミュージカル俳優にとって、とても大切であり、酷使する喉。普段のケアは?

「僕は、光夫さんに勧められて、ホットシャワーという生理食塩水の蒸気が出る吸入器を使っています。気管まで潤って、風邪も引きにくくなりました。なかには、声を使わないように電話もしないという方もいますが、僕は特別なことを始めると、しないと落ち着かなくなってしまいそうで、特殊なことはしないようにしています。そもそも、ルーティンを作って守れるほど細やかな性格じゃないんです(笑)。家では、ダラダラ過ごしていますし。とはいえ、部屋で歌ったり、発声はするので、引っ越し先は、鉄筋コンクリートが絶対条件です(笑)」

“ダラダラ”モードから仕事モードに切り替えてくれるのが、ジムで行う身体作り。

「『ライオンキング』のシンバなら身体を大きくするだとか、役に合わせてやっています。身体を動かすことで感覚が研ぎ澄まされ、ストイックモードに入っていくところがありますね。でも、人から見られるこの仕事をしていなかったら、ジムに通ってないですね(笑)」

力強い歌声に勇気づけられる新アルバム。


舞台俳優生活25周年の今年、アルバム『Break a leg!』をリリース。ミュージカルや映画の名ナンバーをオーケストラの壮大なサウンドに負けずパワフルに、時に繊細に歌い上げます。

 

「特にブロードウェイでよく使われる、〝GoodLuck″といった意味のフレーズ〝Break a leg″をタイトルにつけ、収録曲は聴いてくださる方に寄り添い、少しでも元気になっていただけたらという思いで選びました。『Defying Gravity ~自由を求めて』は、3本の指に入るくらい好きな『Wicked』の一幕最後の曲です。日本で上演される前から、イディナ・メンゼルさんがトニー賞の授賞式でおこなったパフォーマンスに感動して、すぐCDを買って聴き続けてきたんです。MVの水を使った演出は、(須永秀明)監督のアイデアでした。霧吹きでシュッシュ程度かなと思っていたんですが、最終的にはびちょびちょになってて(笑)、とても面白かったです」

 

三浦春馬さんの思いを新作の舞台で届ける。


来年は、世界初上演となる日英合同制作『イリュージョニスト』で、主役の幻影師・アイゼンハイムを演じます。当初、この役は三浦春馬さんがキャスティングされており、海宝さんはアイゼンハイムが愛する女性と婚約してしまうオーストラリア皇太子役でした。互いの舞台を観に行く仲だった二人。最初の出会いは、2017年の読売演劇大賞授賞式で、三浦さんが『キンキーブーツ』で杉村春子賞を受賞した時でした。

「実は会場のトイレで、三浦さんから僕がやった『ノートルダムの鐘』を観てくださったと話してくださって。その後、会うたびに『ご一緒したいですね』と話していたので、『イリュージョニスト』での共演を心から楽しみにしていたのですが……」

舞台を愛し、大切にしていた三浦さん。その思いを海宝さんはどう受け止めていたのでしょう。

「三浦さんは、誰よりもエンターテインメントを追求していた方です。『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳』の東京千秋楽(2020年3月27日)を拝見したんですが、三浦さんは『今は、エンターテインメントが求められていないかもしれない。でも、いつか求められる日がまた来ることを信じている』とご挨拶なさったんですね。僕自身、今年は『アナスタシア』を3日しか上演できず、しんどい思いをしていたんですが、こうした状況であっても果敢にエンターテインメントを届けしようとしている三浦さんの姿や言葉に大きなパワーをもらったんです。『イリュージョニスト』についても、ワークショップを通じて、この作品にかける並々ならぬ情熱を肌で感じていました。その僕が今できることは、最高のクオリティにまで高めて、お客様にお届けすることだと思っています」

 

海宝直人 Naoto Kaiho
1988年7月4日生まれ。千葉県出身。7歳の時、すでにミュージカルに出演していた姉の影響で、劇団四季のオーディションを受け、『美女と野獣』のチップ役でデビュー。1999年、『ライオンキング』初代ヤングシンバ役に抜擢される。2018年、「TRIOPEARAS」のメインキャストとしてウェストエンドデビュー。今年12月2日、アルバム『Break a leg!』をリリース。『イリュージョニスト』は、2021年1月後半、日生劇場で上演予定。

 

<新譜情報>

 

『Break a leg!』
発売中 3300円(税別)

芸能生活25周年を記念したニューアルバムは、オーケストラとともに作り上げた渾身のカバーアルバム。誰もが知る名作から知る人ぞ知る隠れた逸品まで、海宝直人自身が愛する映画やミュージカルの名ナンバー全10曲を収録。世界基準の歌声と表現力を存分に味わわせてくれる。

「Suddenly, Seymour(『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』より)」では、世界的女性ヴォーカリストのアレクサンドラ・バークがデュエットで参加。また2種類の初回限定盤(各7200円・税別)にはボーナストラックとして、Ema、村井成仁をゲストに迎えた「早く王様になりたい」を収録。

撮影/赤松洋平
取材・文/小泉咲子
構成/山崎 恵
 
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