2020年春以降、コロナ関連のさまざまなニュースや噂が流れ、私たちはそのたびに戸惑い、大きな不安に包まれてきました。ワクチン開発のニュースも耳にしますが、未だ感染拡大は続き、収束のメドすら立っていません。

まだまだ困難な日々が続く可能性が高い今こそ、真偽を見極める技術「ファクトチェック」を身につけるべきだと、元NHK記者で国際ジャーナリストの立岩陽一郎氏は言います。
コロナ渦で自分の身を守ることができる「ファクトチェック」とはーー。

 


学者や政治家から疑情報が広まった


2020年の春先、「トイレットペーパーの原料はほとんど中国産だから、中国からの輸入が途絶えてなくなってしまう」というデマが流れ、ドラッグストアやスーパーに客が殺到しました。「ドライヤーの熱風を口に当てればウイルスは死滅する」という噂も流れました。もちろん、何の効果もありません。

 

コロナウイルスの脅威は、ここにあります。このウイルスを前にすると、人々は情報に振り回されて、ネット検索などで簡単に手に入れられる事実ですら検証しようともしない。春先に起きた騒動をもう忘れている人も多いでしょうが、まさに今、第三波が起こっています。再び、同じ混乱を繰り返すわけにはいきません。今こそ、「事実と向き合う必要性が、私たちに迫っている」のです。

恐ろしいのは、ちょっと考えれば見抜けるような嘘ばかりではないところです。
バラエティ番組のコメンテーターとして顔が売れていた学者は、「PCR検査では新型コロナのウイルスを検出できない」と自信満々で言っていました。「コロナは高温多湿に弱いから、夏になれば被害は減る」と発言した学者は、連日、感染症学の権威としてテレビに登場していましたが、今夏の感染増加を考えると疑問です。

「PCR検査を多くやっている国は死者も多い」
「日本は民度が高いから新型コロナの被害が少ない」……。

これらはすべてこの国の“権威”と言われる学者や政治家の発言です。だから当然、メディアでもSNS上でも拡散したし、それを鵜呑みにする国民も多かった。しかし、実際は嘘だったり、不正確だったり、まだ確定できる段階にない情報でした。
 

米大統領選は日本の方が混乱!? アメリカと日本のメディアの差とは


2020年を代表する「混乱」といえばアメリカ大統領選挙もそうです。ドナルド・トランプ大統領は自ら不正選挙だとツイートし、ネットでは死亡者が郵便投票している等々、根拠ない情報が拡散されました。日本でニュースやSNSを見聞きする限り、大統領選は「混乱」や「カオス」そのものの印象を受けたでしょう。

実は当事者のアメリカは日本ほど「混乱」していませんでした。その差は、まぎれもなく、ファクトチェックをしているか、否かの違いなのです。ファクトチェックとは、発せられた情報、発言の内容などについて、主義主張から離れて、単純に事実関係を検証するという取り組みのことです。

アメリカではテレビも新聞もファクトチェックを取り入れています。アメリカのメディアは、現役大統領の発言でもファクトチェックして、ときには「今の発言には誤りがある」と指摘し始めています。日本のメディアが、候補者や当選した政治家の発言内容について、すぐさま「事実か、否か」と調べ、その結果を突きつけるなどということは見たことがありません。受け手である視聴者や読者は、混乱してしまいますが、実は送り手であるメディアの従事者たちが混乱しているのです。

 
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