POINT ③:一汁三菜にこだわらなくても、
楽しく食べれば栄養素はあとからついてくる


子育て世代の「献立が浮かばない!」にさらに追い討ちをかけて頭を悩ませるのが「バランスの取れた食事」ではないでしょうか。たくさんの食材を使えばいとも簡単に解決できる悩みかもしれませんが、それにはコストも時間もかかります。子育て世代にとっては決して簡単なことではありません。

「日本では一汁三菜という言葉からも、栄養を考えてバランスよく食卓に並べるのがいいという教えがありますから、それも日本のお母さんたちが台所で苦悩する原因の一つかもしれません。私はフレンチの料理人ですが、フランスのお母さんたちというのは、キッチンにずっと立っていないで、テーブルに座ってお喋りしながらじゃがいもの皮を剥いていたりするんです。作ることにあまり意気込みが感じられないというか。
それはつまり“作ること”がメインじゃなくて、“食べること”がメインだからなんです。栄養も一食に詰め込もうとしないですし、足りない分は朝昼晩のどこかでフルーツやヨーグルトなんかを摂って補えばいいわよ、と考えている。私は、こういうフランス人のお母さんたちの料理への向き合い方が大好きです」

焼くまでの作り方はハンバーグとほぼ同じという、フランス流のミートローフ「パン・ド・ヴィアンド」。パーティー料理にもぴったりの、オーブンを使った一品です。「みなさんが持っている調理器具なのに、出番が少ないオーブン。実はフライパンより失敗が少ないんです。オーブンに入れたら放っておけばいいだけなので、ぜひ活用してみてください」と志麻さん。

志麻さん自身も、毎日の食卓で栄養バランスを必要以上に考えたり、無理をしてまで品数を増やしたりするということはないそうです。

 

「日本は食材も豊富ですから、スーパーで安くなっている季節のお野菜や、今が旬ですよと売り出されているものを使うとか、昨日はお肉だったから今日は魚にするとか、そんなことを意識するだけでもバランスがいい一食が作れるはずです。楽しく食べれば栄養素はあとからついてくるーーフランス人のお母さんたちがそう私に教えてくれたように、“料理はラクに、食卓は楽しく”ということを、私自身も伝えていけたらいいなと思っています」

気負わずに料理と向き合うということに加えてもうひとつ、志麻さんがフランスで体験して今でもずっと大切にしていることがあると言います。それは、食卓での「会話」です。

「フランスの人たちって、食事中ずーっと会話しているんです。私自身、実家にいた頃は食事の時間はテレビがついていましたし、もちろん会話はありますが、ワイワイ喋るような食卓ではありませんでした。だから、その光景を見た時はすごくびっくりしたのを覚えています。でも、会話があるとやっぱり人って笑顔になれるんです。
私はフランスでその光景を見て以来、食卓は家族で会話をする場所だと考えているので、一生懸命料理しても家族がその大変さをわかってくれていないのなら、もっともっと口に出して伝えていいと思うんです。今日こんな工夫をしたんだよとか、いつも作るの大変なんだよっていうことも会話のネタにして。なんでも話して笑顔で食事をすることで、料理に向き合う心の負担も軽くなるはずですから」

次回は、「子どもと食事を楽しむアイデアがいっぱいのフランス流子育て」についてお聞きします!

 

『志麻さん式 定番家族ごはん』
著者:タサン志麻 日経BP 1400円(税別)

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撮影/柳原久子(water.fish)
取材・文・構成/金澤英恵

第2回、「【タサン志麻さん】子どもと食事を楽しむ、フランス流の子育てアイデア」は12月23日公開予定です。