退院後のトライ&エラー、仕事への復帰

 

自宅に戻ってからは、長期の不在により、猫達に残っている不信感を取り払いつつ、日常モフモフを取り戻す日々がはじまりました。

ですが、以前よりやるべきことは倍増! 薬をちゃんと飲む。仕事のスケジュールは必ずメモ。やるべきことはリスト化し見えるところに貼る。約束がある時には目覚まし時計&スマホのアラームをかける。アラームの前のアラームもかける(苦笑)。

 

自分を信用できない一人暮らしで、二重三重に備えていました。
それでも切手を貼り忘れた郵便物が戻ってきたり、取材の約束の日時を勘違いしたり、コーヒーフィルターを何度も買い忘れたりと、背筋が寒くなることが度々。
「いつでも仕事に戻れる」と過信していましたが、「私って、やっぱり脳がやられてるんだ……」と落ち込みました。

そんな時は、リハビリ病院の臨床心理士さんに相談を。
「仕事への復帰のコツはソフトランディング。まだ疲れやすいので『時短』で様子をみて、業務はとにかく『ダブルチェック』。
働き方や業務の進め方の注意点を一緒に働く人たちと共有して、少しずつ慣れていきましょう。頑張りすぎると、ポキッと折れちゃいますよ」と温かい励ましの言葉が。

ちなみに、「高次脳機能障害」で記憶力が悪くなっちゃった人(私のような人)が周りにいた場合に言わない方がいい言葉は、「物忘れなんて、歳を取ったらみんな同じ」。
加齢のせいなのか、病気のせいなのか本人にもわからないし、以前の自分と違っていることが辛いのに、それをわかってもらえてないという不信感が募るだけ。

「そういう場合に必要なのは別の方向からのサポートです。
たとえば、注意障害で備品を探せないなら、ものを置く場所をきっちり決めてラベルを貼って管理する。

職場でも家庭でも、具体的な対応策を講じると本人も周りもうまくいきやすい。
仕事や日常生活でミスをおこさないようにする工夫を周りがしてあげることで、本人が失敗体験で凹むことなく自然に環境に慣れていければ、自分から『俺、ちょっと注意力が弱いんです』と気軽に言えるようになるはずです。

まず退院したら焦らないこと。時間をかけて生活リズムを整えて、体力をつけるのがポイント」

とたくさんのアドバイスをくれました。

私自身は、忘れるのではなく、注意力が弱いので覚えられないと自覚して、対応策を強化。
「家を出る時リスト」「買い物リスト」「今日やることリスト」など、たくさんのリストをその都度、指差し確認。
最初は「できないとヤバイ」という脅迫観念が強かったのですが、リストがあれば大丈夫という安心感にかわっていきました。

身体的には、心疾患と埋め込み型除細動器(ICD)の定期検診のため、かかりつけ医に3ヵ月に1回、通院しています。
血液検査や心電図をチェックし、血管を広げる薬と胸が痛んだ時のニトログリセリンの舌下錠を処方してもらっています。

ニトログリセリンはなんと爆弾の原料。微量でも舌下に入れると30秒ほどでドカンと縮んだ血管を広げてくれるので、常に携帯しているのです。

 

自分の現状を受け入れて、いろんなものを頼りにしながら、周りの人の理解と協力のおかげで、今、仕事ができています。

蘇った人生のアデイッショナルタイムの今、普通のことが普通にできる幸せをかみしめています。猫達との暮らしを続けるためにも、健康でいなければならないと思うようになりました。

そして、自分の障害を許容してもらっているせいか、自分もいろいろなことへの許容範囲が広がった気がします。他人事が自分事になったのが、蘇り経験での大きな変化です。

『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
熊本美加・著 上野りゅうじん・漫画 鈴木健之・監修 1320円 講談社

毎年の健康診断では「問題なし」だったアラフィフの医療ライターが、ある朝、山手線で心肺停止に。予兆はなかったのか? その時、生死を分けたものとは? その後、高次脳機能障害となるもリハビリを経て仕事復帰するまでをまとめた「蘇りルポ」をコミック化。主治医の監修付きで実用書籍にしました。自分と大切な人のために、読んでおきたい一冊です。


文/熊本美加
構成/片岡千晶(編集部)
この記事は2020年12月20日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。


・第1回「山手線内で心肺停止!即死を免れた医療ライターが2週間前から感じた予兆とは?」>>

・第2回「電車内で心肺停止…脳の機能障害になった女性医療ライターの入院&治療ルポ」>>

・第3回「心肺停止、脳障害から蘇った医療ライター「倒れた後の入院&治療のリアル」」>>

・第4回「山手線内で心肺停止から蘇った医療ライター「留守番の猫は?退院後にした3つのこと」」>>

・第5回「心肺停止から蘇った医療ライター「仕事復帰までの道のり、退院後の生活で困ったこと」>>

 
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