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来年こそ平穏無事な1年に……というのは、日本のみならず、全世界の人たちの切なる願いです。願いといえば、多くの人にとって欠かせないのが初詣ですよね。疫病退散、家内安全、商売繁盛と、初詣では祈願したいことがたくさんある強欲な筆者です。初詣は神社に行く方、お寺に行く方、両方行く方と、習慣によって様々ですが、正木 晃さんの著書『詳説 日本仏教13宗派がわかる本』は、お寺に参拝する際に、新たな発見をもたらしてくれる一冊でもあります。そこで今回は、日本の仏教13宗派を様々な角度から紐解く本書の中から、思わずお寺に足を運びたくなる宗派別の違いについて、特別に一部抜粋してお届けします!

 

日本の仏教の13宗派と言われても、ピンとくる方はそれほど多くないかもしれません。法事といった特別なこと、実家が熱心な檀家であるといったことがない限り、日常で「宗派」を強く意識することは、あまりないのではないでしょうか。でも、実はこの宗派による違いを知れば、初詣などの参拝時はもちろん、旅先でのお寺めぐりもいっそう興味深いものになるはずです。

それでは、まずはじめに日本の仏教13宗派を見てみましょう。

 

【奈良仏教系】法相宗、華厳宗、律宗
【密教系】天台宗、真言宗
【浄土教系】融通念仏宗、浄土宗、浄土真宗、時宗
【禅宗系】臨済宗、曹洞宗、黄檗宗(おうばくしゅう)
【日蓮系】日蓮宗

日本の仏教の13宗派とは、明治維新以前に成立していた「伝統仏教」のことを指しており、「明治政府が13宗56派を公認したことに由来する」のだそう。ちなみに普段私たちは、観光などで参拝する際に「お寺」で見てしまうことが多いですが、例えば、奈良の「興福寺」は法相宗の本山、同じく奈良の「東大寺」は華厳宗の本山、東京の「増上寺」は浄土宗の本山と、ありがたみが増す「お寺の歴史や由緒」も本書で知ることできます。
 

建物の配置にはちゃんと意味がある


私たちがお寺を参拝する際には山門(三門)を通り、本堂に向かいますが、このお寺の境内に配置された建物は「伽藍(がらん)」と呼ばれています。実はこの伽藍やその位置は、宗派によって異なるのだそうです。

 

主な配置は、上の写真の通り。「一番南に門を配置して北へ向かって塔、本堂、講堂が直線状に並ぶのが基本。それ以外の僧房や経蔵などは、東西に配置する場合もある」のだそうです。

宗派によって見てみると、浄土教系は、「阿弥陀如来が、西方極楽浄土にいるとされているので、寺院全体が参拝者から見て西側に配置される傾向にある」(西本願寺など)。
そして、禅宗系は、「建物は直線状に並ぶ。また、禅宗では日常生活も修行と考えられていたので、寺院によっては浴室や庫裏(台所)が重要視された」(建長寺など)という、伽藍の配置ひとつにも、宗派によってなんとも深い理由が。
参拝のときに、伽藍の配置を観察してみるのもいいですね。

参拝時にぜひチェック! 宗派によって違う伽藍の配置

日本の仏教、13宗派で何がちがう? 知れば面白いお寺の「そうだったんだ!」スライダー1_1
日本の仏教、13宗派で何がちがう? 知れば面白いお寺の「そうだったんだ!」スライダー1_2


こんなに違う! 宗派別の「ご本尊」


どのお寺であっても、中心的な建物はもちろん「本堂(金堂)」。なぜなら、ここは大切なご本尊を安置する場所だからです。お寺には必ずご本尊がお祀りされていますが、私たちにも馴染みの深いお釈迦さま、つまり仏教の開祖である釈迦如来様は、どの宗派でも尊崇されているものの、実は「ご本尊とする宗派は限られている」そう。ご本尊にも、やはり宗派別の違いがあるようです。

 


・釈迦如来像(上写真):法相宗・天台宗・臨済宗・曹洞宗・黄檗宗・日蓮宗
・阿弥陀如来像:浄土宗・浄土真宗
・盧舎那仏:華厳宗
・大日如来:真言宗
・弥勒如来:法相宗
 

宗派によってご本尊にはいろんなバリエーションがある
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このように、「仏教」「お寺」と一口にいっても、その教えや歴史によって、実にさまざまな違いがあるようです。家庭にあるお仏壇も、宗派によってお祀りするご本尊は違ってくるわけですが、「奈良仏教を代表する法相宗・華厳宗・律宗は、いわば国家的なレベルで仏教研究のための機関として出発したこともあって、檀家をもたない。したがって家庭の仏壇そのものがないのである」というのも目からウロコでした……。

日本には、この13宗派以外にもたくさんの仏教宗派がありますが、まずはこの伝統宗派の違いを知れば、古刹・名刹のみならず、いつも参拝しているお寺、旅先でふと出会ったお寺ですごす時間も、より味わい深いものになるはずです。
お正月の初詣は、寒さ対策、「密」対策をして、お気をつけておでかけくださいね!
 

著者プロフィール
正木 晃さん
:1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。国際日本文化研究センター客員助教授等を経て、現在、慶應義塾大学非常勤講師。専門は宗教学、とくに日本密教・チベット密教における修行ならびに図像の研究。『密教』(ちくま学芸文庫)、『現代の修験道』(中央公論新社)など著書多数。

 

『詳説 日本仏教13宗派がわかる本』
著者:正木 晃 講談社 1600円(税別)

知っているようで意外と知らない、日本の仏教。日本史の流れから読み解く13宗派の成り立ちや特徴、宗派別の教えと歴史にその名を残す名僧まで、寺社仏閣巡り好きにおすすめの、「日本の仏教宗派解説」の決定版です!


構成/金澤英恵
この記事は2020年12月27日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。