「旦那、モラハラでしょ?」
 

絵梨香とカフェで向き合うと、重苦しい空気が二人の間に流れた。

電話をかけてきたのは、早希と同じく学生時代からの仲の絵梨香だった。きっと、昨晩の電話について聞いたのだろう。

彼女を前にすると、何よりその美しさに圧倒された。

華やかな美人なのは早希も同じだが、肌も髪もメイクも着ているものも絵梨香は圧倒的に隙がない。まるで20代のように艶々と潤った肌に思わずぼんやり見惚れた後で、いつか夫が言っていた“自分に金をかけるのに必死な女”という言葉が蘇り急いで掻き消した。

「時間気にしてるみたいだから、単刀直入に話す」

強い口調でそう切り出した絵梨香に美穂は身構えたが、変に心配されるよりは、こんな風に怒りを向けてくれる方がむしろ気楽だ。

早希に酷い言葉を吐いたことを叱られ、謝り、そしてしばらく放っておいてくれればいい。

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「美穂の旦那、モラハラでしょ?」

「え……?」

予想外の指摘に、美穂は頭が真っ白になった。

「別に早希から何か聞いたわけじゃないよ。でも分かるわ。旦那にいつも怯えてて、旦那が主語の会話ばっかり。で、最近は滅多に外に出られないし、みんなの連絡もスルー。どう考えても変だし周りが心配するの当たり前でしょ。自覚ないの?」

指先が震えた。弁解しなくてはと頭を回転させても、身体が硬直したように動かない。

「でも、透さんと話してる時の美穂はずいぶん楽しそうだった。ねぇ美穂、自分に正直になったら?人生100年の中で私たちまだ半分も生きていないのよ。旦那の言いなりになって、夫の付属品としてあと60年生きるの?」

「ねぇ……突然何よ……私は何も問題なんて……」

美穂はやっと声を絞り出したが、真正面から鋭く自分を見つめる絵梨香から目を逸らしてしまった。

「悪いけど、最近の美穂の顔って“何も問題ない女の顔”じゃないから。何年の付き合いだと思ってる?そのくらい分かるよ。自分を偽って、それで本当に幸せ?」

手足がどんどん冷えていく。もう家に帰りたい。湊人の笑顔が見たい。

そうだ。美穂の幸せは、ただ愛する息子が元気に笑っていてくれることだけなのだ。

「夫婦なんて多少いろいろあるのが普通でしょ。でもウチは子どももいるし、湊人が安定した環境で育ってくれることが一番なの。

……早希と絵梨香には、想像しにくいかもしれないけど」

その瞬間、絵梨香の瞳が少し揺れた。同時に美穂の胸がねじ切れるように痛む。

言葉を取り消そう、訂正しようと反射的に思ったが、やはり今回もどうしても口が開かなかった。

「……なら、みーくんのためにも現実をよく見て考えて。それから……私たちは美穂の味方だってこと、忘れないで」

絵梨香はしばし沈黙した後、そう言って小さく息を吐くと、「そうだ、お誕生日おめでと」
と小さな袋を美穂に差し出し、そのまま伝票を掴んで席を立ってしまった。