ついに2021年1月20日、アメリカ初の女性で黒人の副大統領カマラ・ハリスが誕生します。そんな時だからこそ、あらためて「Black Lives Matter」について考えてみてはいかがでしょう。

どんな人も人権を持って当然!と思われる暮らしを多くの人が送る日本人にとっては、なかなか人種差別ということが自分ごととして考えられないでしょう。

しかし、2020年に大きく報じられたこの運動は、教科書に載っていた黒人奴隷制や人種差別などが、終わった過去のことではなくて、そこから続く問題が、今も無くなっていないことの表れであり、その歴史のなかで、少しずつ、少しずつ、差別をなくすための歩みが今も続けられているということなのです。

たとえば、今、行けるコンビニや、入っていいヘアサロン、使用できる路線が限られていたりしたら……ナンセンス! と思われるでしょう。しかし、1950年代までのアメリカ、特に南部では差別を容認する法が存在し、黒人が通えない学校、黒人が入れないレストラン、黒人がかかることのできない病院など、白人と黒人と使える施設が厳格に分けられていました。白人と黒人の結婚も認められません。そして、電車やバスも、白人の座る席と、黒人の座る席とに分けられていました。

そんな人種隔離政策に異をとなえた、一人の女性を『世界のすごい女子伝記 未来への扉をひらいた、歴史にのこる50人』から、紹介します。

世界のすごい女子伝記 ~未来への扉をひらいた、歴史にのこる50人』。逆境や苦難を乗り越えて懸命に生きた50人のストーリーを、写真とハイセンスなイラストを添えた見開き(2ページ)で読むことができる、スペシャルな1冊。世界で19ヵ国語に翻訳されたベストセラーです。


ただ、バスの席を譲らなかったために逮捕され


ローザ・ルイーズ・マコーリーは、1913年に南部アラバマ州すむ黒人家庭に生まれました。一緒に暮らしていた祖父からは「誰からも絶対にひどい扱いを受けることに屈してはいけない」と教わりました。

教師をしていた母の影響をうけ、学校で学ぶことが大好きだったローザですが、近くに黒人が通える学校は中学校までしかありません。遠くても、通うのが大変でも、黒人専用の学校を転々としながら、高校2年に相当する学年まで通学。

しかし、病気になった家族を看病するために、高校を中退せざるを得ませんでした。

19歳で、レイモンド・パークスと結婚。夫は理髪師、ローザはデパートのお針子として働きました。結婚後に夫の協力を得てローザは復学し、無事に高校を卒業。そして、黒人の地位を向上するための活動に力をいれていた夫のすすめで、初期の公民権運動に参加するようになりました。

不当に逮捕され、死刑を宣告された黒人を救うための活動や、黒人が選挙に参加するための活動などです。第二次世界大戦後には、黒人に対する暴力事件がますます増えるなか、ローザと夫は仕事をしながら活動をつづけ、さまざまな人と関わりあうようになっていました。

1955年12月1日。一日の勤めを終えて、疲れたローザが家に帰るバスの中で、それは起きました。

42歳のローザが、いつものように黒人席に座っていると、バスが混み合いだしました。そして、白人席がいっぱいになり、白人のひとりが座れずに立っていると、運転手は黒人席の最前列にいたローザに席を譲るように命じたのです。

しかし、ローザは動きません。運転手が、立たないなら逮捕させるぞと言うと、ローザは「かまいません」と答えたのです。そして、ローザは逮捕されました。

Illustrations Copyright © Sarah Walsh 2018



「体が疲れていたのではない。服従することに疲れてしまったのです」


のちに彼女が語ったこの言葉は、長いこと不当な扱いをされ、ひどい仕打ちを受け続けてきたこと、彼女らの先祖や仲間たちが負わされた差別に対する、しずかな叫びです。ローザは刑務所に連れて行かれても怖さを感じなかったといいます。

この事件をきっかけとして、ローザの行動に心を動かされた多くの黒人が、心をひとつにしました。ローザのまわりにいた活動家たちが、逮捕されたその日のうちに、黒人たちにバスへの乗車拒否をよびかけました。  

大事な通勤通学の足であるバスを使わないようにというよびかけが、どれだけ成功するかは誰もわかりませんでしたが、若きマーチン・ルーサー・キング牧師が率いた平和的な抗議運動、「バス・ボイコット運動」が、事件から4日後の12月5日にはじまりました。

その月曜の朝。人々は、黒人のタクシーに乗ったり、歩いたりして、バスに乗客はほとんどいませんでした。抗議運動が成功したのです。客の7割近くを占めていた黒人たちがバスに乗らなくなったことにより、市は経済的な打撃を受けました。

いっぽう、キング牧師の家が爆破されたり、ローザ自身も脅迫電話を何度も受けました。しかし黒人たちはさまざまな嫌がらせや暴力事件を受けながらも、このバス・ボイコット運動を一年以上、381日間も続けたのでした。


たったひとりの黒人女性が、最高裁をも動かした


ローザのまっすぐな抗議が人々をゆさぶり、それまで服従し続けてきた黒人たちの意識を変え、さらには社会全体に大きな変化をもたらしたのです。そして、ついに最高裁判所は、翌1956年11月13日に「公共交通機関での人種差別は憲法違反である」という判決をだすに至りました。

これをきっかけに、黒人の人権を取り戻すための運動、公民権運動がさかんになり、ローザは「公民権運動の母」と呼ばれるまでになりました。その後、人種隔離に反対する法律がすべて通った後にも、ローザは、多くの白人の心は変わっていない、いまだに人種差別と人種偏見に基づく暴力が横行していると、自伝のなかで語っていました。

事件から50年後の2005年、ローザは息をひきとりました。彼女が願いつづけた変化は、今を生きる私たちひとりひとりに託されています。カマラ・ハリスにつづく、次の変化を求め続けて。


試し読みをぜひチェック!
▼横にスワイプしてください▼ ※実際の本は左開きです

 

『世界のすごい女子伝記 未来への扉をひらいた、歴史にのこる50人』
キャスリン・ハリガン :文  サラ・ウォルシュ:絵  ふしみみさを:訳

「あなたの未来のために読んでほしい一冊」
世界で19カ国語に翻訳されているベストセラー! ジャンヌ・ダルクからマララ・ユスフザイまで、時代を越えて人々に勇気と希望をもたらす女性たち50人の新しい伝記絵本。一人1見開き展開のオールカラーページで、心に残るお話が気鋭の英国人イラストレーターによる美しい挿絵で彩られ、楽しく読み進められる一冊。贈り物にも最適です。

●エリザベス1世/ジャンヌ・ダルク/インディラ・ガンディー/テレサ・カチェンダモト/武則天/ハリエット・タブマン/ボウディッカ/ハトシェプスト/イサベル1世/サカジャウィア
●フリーダ・カーロ/ビアトリクス・ポター/ココ・シャネル/ビリー・ホリデイ/アンナ・パヴロワ/ミーラー・バーイー/マヤ・アンジェロウ/ジョージア・オキーフ/エミリー・ブロンテ/サラ・ベルナール
●フローレンス・ナイチンゲール/ヘレン・ケラー/アン・サリバン/メアリー・シーコール/シーリーン・エバーディー/マリア・モンテッソーリ/マザー・テレサ/ワンガリ・マータイ/エリザベス・ブラックウェル/エバ・ペロン
●マリー・キュリー/レイチェル・カーソン/エイダ・ラヴレス/ヒュパティア/ロザリンド・フランクリン/メアリー・アニング/キャサリン・ジョンソン/ドロシー・ホジキン/ダイアン・フォッシー/ワレンチナ・テレシコワ
●マララ・ユスフザイ/リゴベルタ・メンチュウ/アメリア・イアハート/ハンナ・セネシュ/ローザ・パークス/ヌーア・イナヤット・カーン/エメリン・パンクハースト/キャシー・フリーマン/田部井淳子/アンネ・フランク


文/講談社 幼児図書編集部 
参考書籍:『ローザ・パークス自伝』(潮出版社)





『世界のすごい女子伝記』50人中、唯一の日本人・田部井淳子のすごい足跡>>

シャネルの「すごい」ファッション革命! 世界をかえたデザイナーの偉業>>