結婚や出産を選択したら
仕事を失うかもと悩んだ時期もありました

 

広末さんご自身には3人のお子さんがいらっしゃいます。母親業をこなしながら、同時に第一線で長く活躍されているからこそ、“女性と男性が肩を並べて働く”ことの難しさを実感されているのではないでしょうか。

広末:結婚や出産という選択をすることで、もしかしたら仕事を失うことになるかもしれない、と若いときは本当に色々と悩みました(笑)。でも自分がちゃんとした姿を見せていけば、結婚しても子どもがいても女優という仕事を続けていけるんじゃないかと、そう考えたんです。女優でも家事をすれば手が荒れるのは当たり前だし、家庭を持ちながらもいい仕事を続けていければ認めてもらえるかもって。

「そんな偉そうなことじゃないんですけどね(笑)」と笑いながら、広末さんは「でも女優だから結婚を諦める――、そんな選択肢はなかったんです」と続けてくれました。

広末:ただ“子育て”という部分では人生で初めてのことで、とても大変なことだと思っていたので、子どもの様子を見てから判断しようと、復帰の時期は決めていませんでした。復帰がなかなかできないことで仕事がなくなったとしたらそのときに努力するしかないし、それでも仕事が来なかったら私の実力はそれくらいのものだったと、そういう覚悟というか、潔さは持っておこうと思っていました。

実際今回の『トッカイ』の撮影でもスタッフの方々に多くのご配慮をいただいています。先日も若松監督に「玲ちゃんのおかげでこの現場は朝が早くないからいいよ(笑)」と冗談交じりに言われました(笑)。本当はもっと朝早くからスタートできるのに、私の入り時間に合わせていただいているので撮影開始時間が遅めになっていて。その代わり「朝は早起きして全力で家事を済ませて、現場に来たら家のことをすべて忘れるくらいの気持ちでやります!」と伝えています(笑)。ワガママを聞いていただきながら、女性として女優として、働く場をいただけることは本当にありがたいと実感しています。

広末涼子40歳。“老い”を恐れず、女優として命をかけたチャレンジをしたい【2021年前半人気インタビューBEST5】_img4

 

広末涼子40歳。“老い”を恐れず、女優として命をかけたチャレンジをしたい【2021年前半人気インタビューBEST5】_img5

 

『トッカイ』が存在していた頃と時代背景は変わっていても、女性が持つ悩み、そして心意気は当時と今を比べても変わらないのかもしれません。

広末:そうですね。20世紀西欧の女性解放思想の草分けと言われるシモーヌ・ド・ボーヴォワールの著書『第二の性』の中に『人は女に生まれるのではない、女になるのだ』と言葉がありますが、最初は意味が分からなかったんです。生まれたときから女性であるわけではなく、時代背景によって“男性が築いてきた女性というイメージや枠”にはめられて“女性”という存在になっているにすぎないという言葉です。そこからどう生きていくか――。それは時代が変わってもひっくり返ることはないと思うのですが、かといって、耐え忍んで我慢しなくてはいけないのかというと、そうではないとも思うんです。ハイヒールを履いて、パンツを穿いて闊歩できることが当たり前になっている事実を考えても、それを切り開いてくださったバブル崩壊直後の女性の活躍は大きかったと思います。

 


優先順位をつけて「何かを諦める」のをやめました


女優業と家庭での役割を両立しながら、活躍の場を広げている広末さん。それら二つの役割を同時にこなすための、広末さんなりの“秘訣”はあるのでしょうか?

広末:若い頃は常に「優先順位をつけないとダメ」だと思っていました。何かを諦めたり、諦めきれなかったり、それで胸にフツフツとした想いが溢れたり、心配したり……。いまはそうならないように今いる場所ですべてにおいて“全力投球できる環境をつくる”ことが大切だと思うようになりました。自宅に戻ったら女優のスイッチは自動的に切れ、それと同時に母親として妻としてのスイッチに切り替わる。仕事を全力でやってそこに悔いを残さない。後ろ髪を引かれることなく役に没頭できるように家のことを全部やりきって現場に入る。そういう切り替えと環境づくりをすることが大切なんだと思います。

でもそれができるようになったのは本当に最近。以前は家のことを全部やりたかったし、気になったし、子どものことも全部見届けたいと思っていたのですが、“演じること”はそんな片手間でできる仕事ではなくて……。自分だけではできないことなので、現場の皆さんのご配慮や私の近くにいてくれるスタッフのケアがどうしても必要です。そして、もちろん家族も。周りの先輩方にも「相手も任せてもらったほうが嬉しいよ」と言ってくださるので、近くで支えてくれる人たちにちゃんと甘えて、寄っかからせてもらっています(笑)。でもそういった環境が整ったことで、この“多村玲”に挑めたと思います。今まで専門用語を多用する役を演じてこなかったというのもありますし、5年前だったら環境的にも難しかったかも。40歳になった今だからやっと挑戦できた役ですね。

“老い”を恐れずに“命をかけるチャレンジ”を
していきたいって思ってます


広末さんは昨年7月に40歳というターニングポイントを迎えられました。年齢について、どう思うかを伺ってみました。

広末:まだ実感はありませんね。私はそこまで年齢や数字にこだわるタイプではないので40代だからこうしなきゃ!みたいなのは特に持っていなくて。でも最近読んだ本には、「女性は40代からよ」、先輩の女優さんからは「悪いけど、50代はとっても楽しいのよ」と“年齢に対するポジティブなメッセージ”がどんどん入ってきます。先輩方が人生を謳歌している姿を拝見すると、私の視野も広がり、視点も変わってきた気がします。女優は「老けたね」とか「太ったね」とか「劣化した」と言われやすいので、若い頃は「おばさんになったら女優という仕事辞めたい」と思っていましたが、今はもっと肝が据わったように感じます(笑)。そんな評価よりももっと大切にするべきモノがあるような気がしていて。“老い”を恐れずに進んでいきたい、そう思っています。

ずっとお話を伺っていると、広末さんの“志を高く、強く持つ姿”にとても惹かれます。その決断力や意思の強さはどうやって養われているのでしょう。

広末:ありがとうございます(笑)。気づいたら備わっていた感じもしますが、もしかしたら、南国で育った楽観的な性格のせいじゃないかなって思います(笑)。私は高知県の出身ですが、空も海も青くて広くて、とても開放感がある場所なんです。しかも県民性として何事もウエルカムで人が大好き! そんな人たちの中で育ったので、周りの人を信頼することや、夢や将来に対して信じる気持ちはすごく強いと思います。おまけに田舎のスポーツ少女でしたから(笑)、負けず嫌いで努力が結果に結びつくというのも信じています。

「数字には固執しない」と話してくださった広末さんに、敢えて40代、そして50代を目指すうえでの理想の姿について、最後に伺いました。

広末:30代で集大成を作ってから40代に突入したかったので、昨年色々と考えていたのですが、コロナ禍のせいでストップしてしまったものがたくさんあるんです。今年こそは、何か形にできたらいいなと思っています。同時に、20代、30代は子育てが中心で、【女優】として命をかけて挑むような役には挑戦できなかったという想いがあるので、そういう役にチャレンジしたいと思っています。

今回の『トッカイ』で伊藤英明さんの役がまさに“命をかけて挑む役”だと感じたのですが、それを見ていて、若い頃に映画『嫌われ松子の一生』を映画館で観たときのことを思い出しました。当時、私は家庭を持っていて子どもを育てながら仕事をしていましたが、どうしても観たくて、朝一番の回を観に行きました。感動して、席から立ちあがれなくて、「ああ、(中谷)美紀ちゃんはこの作品に命かけてるんだな」と思いました。一方で、そのときの私にそれができるかというと、無理だったのも事実。いまようやく私が抱えていた不安要素が少しずつ減ってきて、挑めるタイミングになったのかなと思うようになりました。下の子はまだ小さいけれども一人ぼっちになることはありません。ここからは尻込みせずに“命をかけるチャレンジ”をしていきたい――、そう思っています。

広末涼子40歳。“老い”を恐れず、女優として命をかけたチャレンジをしたい【2021年前半人気インタビューBEST5】_img6

広末涼子 Ryoko Hirosue
女優。1980年7月18日生まれ、高知県出身。O型。『第1回クレアラシル「ぴかぴかフェイスコンテスト」』でグランプリを獲得しデビュー。NTTドコモのCM出演で話題を集め、人気を博す。フジテレビ系ドラマ『ビーチボーイズ』、映画『鉄道員』『秘密』『おくりびと』など話題作に多数出演。最近公開の映画に『嘘八百 京町ロワイヤル』『ステップ』『コンフィデンスマンJP プリンセス編』などがある。

<ドラマ紹介>

連続ドラマW トッカイ ~不良債権特別回収部~
(全12話)
1/17(日)よる10:00よりWOWOWにて放送開始

「しんがり」「石つぶて」に次ぐ清武英利の衝撃作映像化、第3弾!国民の税金を守るため、6兆7800億円の不良債権回収に精鋭たちが立ち上がる――!

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熱い理想と怒りを持ってチームの指揮を執る主人公を演じるのは、「海猿」シリーズや、映画『22年目の告白-私が殺人犯です-』など数々のヒット作で主演を務めている伊藤英明。そして、ジャニーズ事務所の若手実力派として注目を集める中山優馬、さらに広末涼子、萩原聖人、矢島健一、橋爪功といった豪華キャストがトッカイチームの面々を熱演する。

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1996年、あおば銀行・融資部の柴崎朗(伊藤英明)は、経営破綻した住宅金融専門会社(住専)の不良債権回収を目的とした国策会社「住宅金融債権管理機構(住管機構)」への出向を命じられる。そこには、柴崎と同様に銀行からの出向組の塚野智彦(萩原聖人)のほか、経営破綻した元住専社員の葉山将人(中山優馬)、多村玲(広末涼子)、岩永寿志(矢島健一)らが集められていた。「不良債権を1円残らず回収する」――社長の東坊平蔵(橋爪功)が掲げた至上命題とともに彼らに背負わされた回収額は、6兆7800億円。バブル経済が崩壊し、経営破綻した住専の不良債権処理のため、政府は6850億円もの税金を投入し、国民の怒りを買った。その失政のツケを負わされるかのごとく、回収の最前線に集められた彼らは、バブル経済に踊った怪商、不動産王、暴力団ら悪質債務者と対峙し、国民の税金を守るために命を懸けた熱き闘いを繰り広げていく――。

撮影/塚田亮平
ヘア&メイク/山下景子(KOHL)
スタイリング/岡本純子
取材・文/前田美保
構成/川端里恵(編集部)

 
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