コロナ危機以降、業務のテレワーク化が進んだことで、メールやチャットなど非対面で仕事のやり取りをするケースが増えてきました。プロジェクトの進捗管理についても、口頭ではなく文書化する必要に迫られている人も多いと思います。

 

コロナをきっかけに、分かりやすく明瞭な文章を書くビジネス・スキルの重要性が高まっているわけですが、この話は、社会のIT化に伴って、以前から指摘されてきたことです。

諸外国の場合、そもそも文書主義の商習慣だったことから、文字を書く場所が紙からデジタルに変わっただけでしたが、日本の場合、直接会って、対面でやり取りするというのが基本的な商習慣です。このため、口頭から文書に置き換えることに抵抗感を持つ人が少なくありません。

日本は諸外国に比べてデジタル化が遅れているとの指摘があり、それは正しい指摘ではあるのですが、厳密に言うとデジタル化が遅れているのではなく、文書主義でビジネスを進めるスタイルへの移行がそもそも出来ていないのです。

文章を使って円滑なコミュニケーションを行うためには、話し言葉と書き言葉を明確に分け、主語と述語、目的語の関係をはっきりさせた上で、簡潔かつ論理性の高い文章を書く必要があります。

対面でのコミュニケーションというのは、表情や声などが含まれますから、多少、言葉の論理性があやふやでも意図は相手に伝わります。ところが非対面の場合そうはいきませんから、論理的な文章にしないと正確な意図を伝えられません。非対面でのコミュニケーションでは、原則として話し言葉ではなく、書き言葉を使う必要があるのはこうした理由からです。
話し言葉をそのままメールで書いている人を時折、見かけますが、友だちとの井戸端会議や、親しいビジネス相手とのフランクなやり取りなら問題ありませんが、一般的な仕事の場では避けた方がよいでしょう。

意思表示についても同様です。例えば「このキャンペーンに申し込むと3カ月間無料になるのでしょうか?」という相手の質問に対して、「このキャンペーンはお客様に大好評をいただいております」と返答する人をよく見かけます。このケースでは「無料になるのか?」という質問にはまったく答えていません。しかし、対面の場合には、笑顔や頷きがありますから、相手は何となく「イエスなのだな?」と推測することができます。しかし非対面ではそうはいかないでしょう。

質問をする側も何について質問しているのかを明確にし、答える側も、回答をまず明示して、その後に説明を加えるといった工夫が必要となるわけですが、困ったことに、これだけでは完璧とはいかない部分も残されています。というのも、SNSの普及と読書習慣の減少によって、分かりやすい文章の定義が変化しているからです。

 
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