1万人のオーディションを勝ち抜き、大役を掴んだ『ソロモンの偽証』。今でも板垣さんにとっては特別な作品です。

「でも、自分では観返さないです。だって、悔しいじゃないですか。本当にいい映画だったからこそ、まだ自分はあの作品を超えられるものに出られていないなって気持ちになる」


その悔しさが、板垣さんを生き急がせている理由のひとつ。もっといい作品を残したい。そのために自分を高めていきたい。立ち止まっている時間は、20歳の青年にはありません。

「僕は、自分がどう見えるかとか、そんなことは全然考えていなくて。頭にあるのは、作品がより良くなることだけ。そのパーツとして自分は何ができるか。それ以外考えることはないです。お芝居をするときも、まずは相手ありき。そこは大切にしたいです」

 


作品にすべてを奉仕することが、自分の仕事


20歳とは思えないほどストイック。そんな板垣さんに、うまい芝居とはどんな芝居かと聞いてみると、予想外の答えが返ってきました。

「映画もドラマもプロデューサーさんがいて、そのプロデューサーさんはどういうテイストの作品をこれまでやってきたかとか。ドラマなら枠があって、その枠が今までやってきた作品のテイストとか。あとはお金を出してくださるスポンサーさんとか、監督の好きなものとか。そういうのを全部統合して作品が出来るわけじゃないですか。まずはそこをちゃんと理解すること。でないと、自分が何を求められているかがわからないから」

そう極めて冷静に、俯瞰して全体を見渡します。

「そこから、その枠の中で自分に何ができるか考える。限られた中で、どこまで遊べるかは本人次第。その限られた中で、自分の持っているものをすべて奉仕して作品に向けることが、うまい芝居かどうかはわからないけど、自分の仕事なんだと思います」

もしかしたら20歳というだけで、彼のことを少しあなどっていたのかもしれません。人なつっこい無邪気さと、客観的に物事を捉える視点。板垣瑞生はその両方を併せ持った、とてもユニークな青年でした。

だからこそ、最後に聞いてみました。『FAKE MOTION』は卓球で天下を争う物語。いつの日か俳優として天下を獲る野心はありますか、と。

すると、「え? どうなんですか?」と周りのスタッフに振ってはぐらかしたあと、自分で自分に発破をかけるようにしてこう答えました。

「獲るしかないっしょ。だって、自分の周りにはこんな面白い人たちがいるんだから。絶対勝ちますよ」

決して負けん気の強いビッグマウスではなく。「へへへ」とちょっと照れ笑いをまじえながら。そんなところはまるでイタズラ好きの少年のようで、大人びたクールな面差しとは別人です。

この宣言がどうなるかは、これからの彼次第。でもきっと彼なら手にする気がする。俳優・板垣瑞生、20歳。その大いなる20代は、まだ始まったばかりです。

 

<公演情報>
『FAKE MOTION‐たったひとつの願い‐』


勉強でも喧嘩でもなく、卓球の強さですべてが決まる時代。絶対王者・薩川大学付属渋谷高校を恵比寿長門学園が破ったことで、東京は一つになったかに思えた。しかし半年後、大阪の頂点・天下布武学園が攻め込んでくる。都立八王子南工業高校の土方(板垣)は連合軍を結成し、天下布武を迎え撃とうとするが……。他に草川直弥、田中洸希、吉澤要人、森崎ウィン、荒牧慶彦、佐野勇斗、古川毅ら出演。

日本テレビほかにて毎週水曜深夜0:59~1:29放送。
1月20日、27日は花江夏樹ナレーションでおくる『FAKE MOTION -卓球の王将-』特別編を放送。
Hulu、dTVで地上波放送終了後に見逃し配信中。

撮影/塚田亮平
スタイリング/石橋修一
ヘアメイク/礒野亜加梨
取材・文/横川良明
構成/山崎 恵
この記事は2021年1月26日に配信したものです。
 mi-molletで人気があったため再掲載しております。