――はるなさんをはじめ、LGBTQの方と関わることで、岸谷さんの中で意識が変わっていったところはありますか。

岸谷 そこで言うと、僕はわりと自然と受け入れていたから、何かわざわざ考えるということはあまりしてこなかったかもしれない。セクシュアリティがどうであろうと、僕にとっては友達。それだけなんですよ。

それはさっき言った通り、僕たちの仕事が俳優業というのが大きいのかもしれない。芸術の世界にいる人にとっては、人と違うことが個性にもチャームポイントにもなる。その分、入りやすかったというのはあると思います。

岸谷五朗が語る、エンタメがLGBTQを扱う意義と難しさ「作品で伝えたいことを見失っちゃいけない」_img0

 


周りが「あなたはこうですね」と簡単に当てはめちゃいけない


――取材の仕事をしていると、無自覚に当事者を傷つけてしいるのかもしれないと感じることがあります。たとえば、男性俳優に対して好きな女性のタイプを聞くこともあるのですが、その人がセクシュアリティをオープンにしていない限り、性的指向が必ずしも女性とは限らない。

にもかかわらず、「好きな女性のタイプ」と限定して聞くことで、無意識のうちに異性愛を当たり前のものとしてしまっているのではないかとか。なので、今は「どんな人を好きになりますか」と性別を特定せずに聞くようにしています。

岸谷 小さなことかもしれないですけど、でもそういう気遣いはこれからもっと大事になってくると思います。特に、自分の性的指向を隠したい人にとっては、その質問は強烈かもしれない。

ただね、これは僕の個人的な考えなんだけど、ちゃんと相手に礼儀をもって喋っていれば、それ自体はそこまで大きな問題にはならないと思うんですよ。

大事なのは、人間同士として相手をちゃんと認めること。その人のことをちゃんと知ろうとして、ちゃんと尊重しようとする。その気持ちが伝わっていれば、相手もわかってくれる気がします。

――LGBTQの方たちを尊重していくために、日本の社会が変わっていった方がいいと思うのはどんなところですか。

岸谷 それはLGBTQの人たちの意見を聞くことじゃないかな。当事者の人が何を求めているのか。何に悩んでいるのか。やっぱりその人たちでないとわからないから。

こう話している僕でも、やっぱり本当のところはわからない。特にカミングアウトしていない人は周りに本当の気持ちを言えない分、抱えこんじゃうかもしれないしね。

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――これはLGBTQに限らずなんですけど、「人のことはわからない」と思うことはすごく大事なんだなと最近つくづく実感します。どうしても年齢を重ねていくと、これまでの経験則に当てはめて他人のことをわかって断定したような言い方をすることがあるのですが、自分以外の誰のことも本質的にはわからないんだと思うことがコミュニケーションでは大事なんじゃないかなと。

岸谷 本当に。それこそ僕がまずいちばんに大事にしたいことは、LGBTQと言うけれど、実際にはそれだけじゃなくて、L(レズビアン)とG(ゲイ)とB(バイセクシュアル)とT(トランスジェンダー)とQ(クエスチョニング・クィア)の間にもっといろんな人がいるということなんです。

最近は「LGBTQ+」や「LGBTQIA」という言い方も広まってきましたけど、それぐらい性というのは多様で、周りが「あなたはこうですよね」と簡単に当てはめちゃいけない。「LGBTQ+」の他にもたくさんの性のあり方があって、それを周りがちゃんとわかること。そこがいちばん大切なんじゃないかな。

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――他者が勝手にその人のことを決めつけないことの重要性は、いろんな面で感じます。

岸谷 そして、それを当事者の人にも言ってあげることだよね。どこにも当てはまらなくていいんだよと。自分であるということが、もうそれだけであなたの性ですよと伝えることが、悩んでいる人の何か救いのひとつになるのかもしれない。

それこそゲイの人だからってこうしなさいということもないわけじゃない? 同じゲイであっても、あの人はこうしているけど、自分はそうじゃないということがいっぱいある。きっとLGBTQの当事者の間でも意見の食い争いとかあるはずだもんね。

その議論の輪に僕らも入って、一緒に話し合いができる。それがいちばんいいのかなという気がします。