【学校の問題3】一方通行型の授業

 

アクティブ・ラーニングという双方向性の学びは、以前に比べるとだいぶ学校現場でもみられるようになりました。しかしながら、まだまだ大半の授業は一方通行型で実施されている現実もあります。

 

この問題の根底には、「履修主義」と「修得主義」の違いがあります。日本の義務教育は「履修主義」です。子どもが理解しているかどうかに関わらず、授業に出席していれば卒業できるという考え方です。「修得主義」は、文字通り「修得」できたかどうか、理解してできるようになったかどうかが問われる考え方です。

高等学校は、本来は単位取得の「修得主義」なのですが、必修単位があったり、能力的にばらつきがあったりするので、現実的には授業の出席や課題の提出といった「履修主義」をかなり取り入れて運用されています。

「履修主義」においては、教科書の内容を等しく教えられることが求められるのが実態で、学年に4クラスあれば担当の教師が異なっても、教える内容に差があると問題になりがちです。

となると、教師にとって、授業は教科書の内容を一年間の進度をみながら一方的に説明した方が、カリキュラムを消化しやすく、アクティブ・ラーニングをふんだんに取り入れると授業の進度に影響が出て、教科書がすべてカバーできないという不安があります。もちろん、わかりやすく教えることに教師は努力していますが、すべての生徒が理解するのは難しく、多くの生徒をわかったような気にさせるのが、いい授業だという考えもあります。

この「履修主義」の問題点が、コロナ禍において表面化しました。休校が続いたので教科書をすべて終える時間をどのように確保するかが問題となったのです。そのために、授業の一日の時間数を増やす、夏期休暇を返上する、行事を削減する、といった子どもたちの生活、もっと言うとコロナ禍で傷ついている心を無視してでも「履修」にこだわる問題が各所から報告されています。これは生徒だけでなく、教師にとっても問題で、分散登校の準備、教室の消毒作業などの業務もありながら頑張っているのが実情です。
 
40人学級で効率的な人員配置でカリキュラムの消化を目的とする「履修主義」は、抜本的に見直す必要があります。


「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力」


上の言葉は、2020年から始まった新しい学習指導要領の3本の柱の一つです。教育現場は、新学習指導要領の船出からいきなり「未知の状況」への対応を突きつけられたわけです。新学習指導要領は、今後予想される大きな社会の変化に対応し、今までの教育で問題になっていた点を解決すべく作られました。新型コロナウイルスの感染拡大は、まさにこの問題点を浮き彫りにしたと言えます。

今までやってきた授業をどうやってオンラインに置き換えるか、という視点では本質的な問題解決にはつながりません。そもそも授業に関しては、すでに教育現場では行き詰まっており、だからこそ新学習指導要領では、新たな可能性の模索をうたっているわけです。

考える余裕がなかったのは、よくわかりますが、学校のすべてを今一度、根源から考えてみようという意見がもっとあってもいいのではないかと感じます。

著者プロフィール
石川一郎さん:
「聖ドミニコ学園」カリキュラムマネージャー。「21世紀型教育機構」理事。経済産業省「未来の教室」教育コーチ(2019年度)。知窓学舎カリキュラムマネージャー。1962年東京都出身、暁星学園に小学校4年生から9年間学び、85年早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。前かえつ有明中・高等学校校長。前香里ヌヴェール学院学院長。「21世紀型教育」を研究、教師の研究組織「21世紀型教育を創る会」を立ち上げ幹事を務めた。『2020年の大学入試問題』(講談社)、『2020年からの教師問題』(ベストセラーズ)など著書多数。

 

『学校の大問題 これからの「教育リスク」を考える』
著者:石川一郎(SBクリエイティブ/900円税抜)

「21世紀型教育」を研究する著者が、教育関係者や保護者が知っておくべき「教育リスク」を明らかにしつつ、新学習指導要領に掲げられた「未知なる状況に対応できる」人間を育てる方法を考察。民間の教育機関やICTの専門家による助言をまじえながら論じていく。


構成/さくま健太

 

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