2月から始まる大河ドラマ『青天を衝け』では、主人公・渋沢栄一のいとこで、ともに時代を並走する渋沢喜作を演じる高良健吾さん。その放送開始を前に現在公開中なのが、最新出演映画『おもいで写眞』です。高良さんが演じるのは、主人公・結子の幼馴染みで役場に勤める一郎。タイトルの「おもいで写眞」は、地元のお爺ちゃんお婆ちゃんの思い出の場所で写真を撮るというもの。一郎が発案し、結子が発展させた、役場の無料サービスです。それをきっかけに始まるのは、人の心にある「本当と嘘」の境界線の物語。そこから発展したのは、どちらも嘘ではない「事実と記憶」「心と身体」の境界線について。インタビューには、大河ドラマという大きな作品を前にした俳優としての変化も感じます。

 


都合よく書き換えた嘘の記憶が、
人を勇気づけ、前進させることもある


映画『おもいで写眞』のヒロイン・結子は、メイクアップアーティストを目指して東京に出たものの、29歳で帰郷。きっかけは祖母の死ですが「夢破れ」というのが実際のところです。高良健吾さんが演じる一郎は、郷里の役場で働く結子の幼馴染。穏やかで鷹揚な一郎に対し、頑なで意地っ張りの結子は、いつもどこか苛立っている感じです。

高良健吾さん(以下、高良さん):人にはそれぞれに異なる大切なことがあり、それが「その人らしさ」だと思うのですが、結子はそういう他人の「らしさ」を大切にできないんですよね。最初は「結子ってなんでこうなんだろう?」と思いながら脚本を読んだのですが、一郎は自分にはないそういう部分ーー頑固さと、その頑固さに彼女自身が苦しんでいることも含めて、結子が好きなんです。たとえ結子をたしなめても、すぐに「言いすぎたな」と謝りに行ったり……そういうところを見ても、一郎は「その人らしさ」を大事にできる人なんだと思います。

 

結子が最も許せないことが何かと言えば「嘘をつくこと」。確かに嘘はよくありませんが、結子の場合は、頑なと言うか不器用というか、お世辞が言えないのはもちろん、嘘とも本当とも言えない曖昧な気持ちを理解できず、「触れられたくないから言葉を濁す」程度のことも「嘘だ」と指摘せずにはいられません。そんな結子を変えるきっかけとなるのが、役所の依頼で手伝い始めた「おもいで写真の撮影サービス」。お爺ちゃんお婆ちゃんが語る「思い出」は、記憶違いや思い込み、叶わなかった過去の夢などーー結子的世界で言うところの「嘘」ばかり。ところが、それがお年寄りたちを元気にしてゆくのです。

高良さん:おもいで写真は、自分が本当にしたかったことや、なりたかったものに、近づいた瞬間を形にしたものなんですよね。だから写真を撮られた人を元気にするんだろうなと。「らしさ」に、自分が思う「らしさ」と他人が客観的に見た「らしさ」があるとすれば、おもいで写真は自分が思う「らしさ」が写ったもの。真実と事実の違いに似てるかもしれません。それは自分以外の誰が否定することでもジャッジすることでもないと思うんです。


事実と嘘(もしくは真実)の間には明確な境界線があるわけではなく、その間にはいくつものレイヤーがあります。なぜかと言えば、事実は頭の中でその時々に書き換えられて記憶されてゆくから。それが思い出(もしくは、その時々の真実)と呼ばれるものの正体に思えます。

19歳で映画デビュー、今年は2月14日から放送開始のNHK大河ドラマ「青天を衝け」への出演が控える高良さん。これまでと今の役に向かう姿勢などを伺いました。
 

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