若い頃は、気持ちができるのを待ってもらったりもした


さておき。この映画を見て驚いたのは、高良さんが20代の頃と全然変わっていないことです。実年齢より若い役を演じるための、なにか工夫があったのか聞けば、答えは「特には何も」。

高良さん:多分、脚本のセリフやト書きの部分に書かれているからだと思います。そこにある一郎を忠実に演じようとした時に、そういう風に見えてくれたのかなと。今回で言えば、方言に助けられた部分は大きかったと思います。方言の柔らかさとか、のんびりしたところが、一郎を色付けてくれたんだと思います。

 

特に印象的なのは、素直で真っ直ぐ前向きな一郎を、そのまま感じさせる背筋をシュッと伸ばした立ち姿。セリフや表情だけではない、演技が身体表現であることを実感します。

 

高良さん:今回、ご一緒した古谷一行さん、杖をついて歩く足の悪いお年寄り役だったんですが、身体の重心を置く場所をずっと探っていらしたんです。そこが違うだけで、ニュアンスが変わってくるんですよね。演技って身体表現なんだなと、本当に思いました。若い頃は、気持ちができないと演じられないと思ってもいたし、気持ちができるのを待ってもらったりもしたんです。でも体を動かしてみると、気持ちがついてくるということも結構ある。だから、気持ちだけを信じないし、身体だけも信じちゃいけないと言うか……。

高良さん自身が思う「高良さんらしさ」を伺えばよかった……と後悔したものの後の祭り。ならばインタビュアーから見た「高良さんらしさ」はと、何度かご一緒したインタビューを思い返せば、演技に対する真面目さ、ストイックさ。20代の頃は「理解できない役を演じるのが辛かった」、30代になる頃の取材では「分からなくてもいいのかな」ーーそこから3年たった今は、真剣さはそのままに、でもさらに力が抜けた印象です。

 

高良さん:30代で最初の時代劇『多十郎殉愛記』は、「よし、やってやる!今までの集大成!」くらいの状態で力が入りすぎていた気がします。ついこの間、BSで放映しているのを見たら、あれここの場面、こんな風に演じていた記憶ないんだけど……って、さっきの記憶の話じゃないですが、自分の中で都合よく変わっていました(笑)。でも都合よく記憶を変えることって、自分が変化した証拠でもあるから、前向きなことでもあると思うんですよね。
 
やっぱり芝居って難しいなと思うんですが、難しくしちゃダメだな、とも思うんです。見ている人に「これだったら自分にだってできるじゃん」と思われるぐらいがいい。肩の力を抜くのが難しいのは分かってると一旦認めた上で、自分らしい間合いとか自分らしい居方を追求する。でも同時に、そういう自分の感覚を信頼し過ぎちゃいけないなとも。今は、もう少し「モノ」のように扱われたい感じがあるんですよね。役がそこにあったら「とりあえず、やろうぜ」っていう感じ、というか。

「やれと言われればどんなことだってできなきゃいけない」と思いがちだし、現場で「しくじった、ああ、やっちゃった」と凹むこともすごく多い。でも今回は俳優を長年やっている先輩たちとご一緒して、わかったんです。それだけやってきた方たちだって、現場では「こうじゃないか、ああじゃないか」とずっと試行錯誤してるし、全然満足していない。だから僕ごときの年齢では満足にできることなんて、そんなに多くはないんです。


マスク越しのテストと本番の違いも楽しんでいます


今楽しみにしているのは、2月14日から放送開始のNHK大河ドラマ『青天を衝け』。主人公・渋沢栄一のいとこで、豪農から武士へ、そして明治時代の大実業家になる渋沢喜作を1年間演じます。コロナ禍にあって十二分に注意しながら、撮影は進んでいるようです。

 

高良さん:マスクをつけてテストして、本番でやっと取り外す、そういう大変な部分はありますね。ただ演技への影響という意味でいうと、本番まで相手の表情がみえないことは、僕は、面白い。お!こういう表情してたんだ!とか、こうなるんだっていうところが。テストで作り上げたものを、よしやろう、というのではなく、本番まで何かを残しておける感じがあって。

長丁場ゆえの楽しみは、自分が今演じている役を放送で確認できること。そこには、少し以前の自分が「大事にしたもの」があり「こんな風に演じていたんだ」と気付かされることもあるかもしれません。それを修正しながら、先にすすんでいけるのもまた、長丁場の作品の魅力なんだとか。

高良さん:ひとつの役を長いこと演じると、自分の中で役が成長していくのを感じるし、ほんとうにしっくりし始めるんです。クランクアップする時に、自分が演じる喜作がどういう人物になっていくのか。僕自身も変わっていくだろうし。それもすごく楽しみなんですよね。

 

高良健吾
1987年11月12日生まれ、熊本県出身。2006年、『ハリヨの夏』にて映画デビュー。『軽蔑』(12)で日本アカデミー賞新人賞、『苦役列車』(13)で日本アカデミー賞優秀助演男優賞、『横道世之介』(14)ではブルーリボン賞主演男優賞を受賞する。近年の主な映画出演作に、『アンダー・ユア・ベッド』(19)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(19)、『葬式の名人』(19)、『カツベン!』(19)、『星の子』(20)などがある。2021年には、NHK大河ドラマ『青天を衝け』への出演と、映画『あのこは貴族』(2月)「くれなずめ」(4月)公開が控えている。

<映画紹介>
『おもいで写眞』
2021年1月29日より全国公開中

©「おもいで写眞」製作委員会

『パンとバスと2度目のハツコイ』『愛がなんだ』『空母いぶき』など話題作への出演が続く深川麻衣を主演に迎え、『おと・な・り』『君に届け』『ユリゴコロ』の熊澤尚人監督がメガホンを取り、オリジナル脚本で描くヒューマンドラマ。高良健吾、香里奈、井浦新らが出演、吉行和子、古谷一行らが脇を固める。

<STORY>
たった一人の家族だった祖母が亡くなり、メイクアップアーティストになる夢にも破れ、東京から富山へと帰ってきた音更結子(深川麻衣)。祖母の遺影がピンボケだったことに悔しい思いをした結子は、町役場で働く幼なじみの星野一郎(高良健吾)から頼まれた、お年寄りの遺影写真を撮る仕事を引き受ける。初めは皆「縁起でもない」と嫌がったが、思い出の場所で写真を撮るという企画に変えると、たちまち人気を呼ぶ。ところが、あるひとの思い出が嘘だったとわかり、その後も謎に包まれた夫婦や、過去の秘密を抱え た男性からの依頼が舞い込む。怒って笑って時に涙しながら成長してゆく結子の毎日は、想像もしなかったドラマを奏でてゆく──。

■出演:深川⿇⾐ ⾼良健吾 ⾹⾥奈 井浦新 古⾕⼀⾏/吉⾏和⼦
■監督・脚本:熊澤尚人
■脚本::まなべゆきこ 
■音楽:安川午朗 
■原作:熊澤尚人「おもいで写眞」(幻冬舎文庫) 
■主題歌:安田レイ「amber」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
■製作:テンカラット ソニー・ミュージックエンタテインメント イオンエンターテイメント 関西テレビ放送 スタジオブルー
■製作プロダクション:スタジオブルー
■配給:イオンエンターテイメント
URL:http://omoide-movie.com
©「おもいで写眞」製作委員

撮影/塚田亮平
スタイリング/渡辺慎也(Koa Hole)
ヘア&メイク/高桑里圭
取材・文/渥美志保
 構成/川端里恵(編集部)
 
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