2020年10月23日、「iPhone 12」販売開始前の都内のアップルストア。最新機種の発売日の長蛇の列はもはやお馴染みの光景に。写真:西村尚己/アフロ

これまでもクルマで音楽を聴く人はたくさんいましたから、カーオーディオの分野は大いに発達してきましたが、あくまでクルマが「主」で、オーディオは「従」の関係でした。しかしアップルの音楽配信は、音楽配信が「主」でクルマが「従」の関係なります。数年後には自動運転システムが本格普及するのは確実ですから、そうなってくるとクルマに乗っている時間に映画を見たり、仕事をすることができます。そうなるとますますITサービスが「主」でクルマが「従」という関係にならざるを得ません。

 

つまりアップルカーは、ITサービスをいかに使いやすくするのかという観点で設計されるはずですから、従来のクルマとは違ったテイストになる可能性が高いでしょう。

この動きが不可避であることは、他の巨大IT企業の動向を見ても明らかです。中国の配車アプリ大手の滴滴(ディディ)や、同じく中国の検索エンジン大手、百度(バイドゥ)もEV参入を表明していますし、米グーグルが以前から自動運転システムの開発を進めていることは多くの人が知っていると思います。

アップルにとって自動車は周辺機器でしかないというのは、自社で製造を行わない方針であることからもよく分かります。アップルは水面下で自動車メーカーや部品メーカー各社に対して製造依託を打診していると報道されています。アップルからクルマの製造を受託できれば、メーカーにとっては大きなビジネスではありますが、これは自動車メーカーがアップルの下請けになってしまうということを意味しています。アップルからはかなりの値引要求があるはずですから、大きな利益にはつながらないかもしれません。

何より自動車メーカーにとっては、製品開発の主導権を他のメーカーに奪われてしまいますから、長期的には大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

近い将来、多くの自動車は、「買って乗るモノ」から、「必要な時に利用するモノ」へと変化する可能性が高いと考えられます。もちろん一部は、運転を楽しむためのクルマとして存続すると思いますが、大半の自動車はITサービスと一体となり、より便利なツールに変化するでしょう。

日本は諸外国と比較してもiPhoneのシェアが特に高い国ですから、身の回りのものをすべてアップル製品にしたいというコアなファンが大勢いるはずです。アップルカーはまずはこうしたコアなファンから浸透し、やがて廉価版の製品が登場して、多くの人が利用するという順番で普及していくことでしょう。同時にアップルの自動車参入を契機に、他のIT企業も続々と自動車を投入してくる可能性が高いと筆者は考えています。


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