そうしてしぶしぶ子会社に移った裕子さんでしたが、そこで待っていたのは、ザ・男社会。本社から突如やってきた裕子さんは歓迎されず、部長なのに予算も部下も与えられなかったといいます。「何もしないでおとなしくしていればいいのかもしれないけど、なんだか無力感が募ってしまって」と打ちひしがれる裕子さんに紫乃ママがかけたのは、こんな言葉でした。

 

「やりたいことがなかったら、取り敢えずやりたくないことをやめてみるっていうのもありじゃない? 私なんか朝早く起きて満員電車に乗って同じ場所に毎日通うのが本当に嫌だったから、自分で会社作ったんだよ」

この言葉に目からウロコが落ちた裕子さんは、「一番やりたくないこと」はこのまま会社にいることだと気付き、退職を決意。すると、すぐに知り合いから声がかかり、ITベンチャーへの転職が決まったと言います。

 

紫乃ママ:裕子さんが持っていたものは、実は裕子さんにとっては本当に欲しいものじゃなかったのかもね。でも、たいていの人が欲しがるような、「安定」や「ポジション」だから、「自分も欲しいのかも」とちょっと錯覚していたのかも。きっと裕子さんはそれにうすうす気付いていたのよ。

裕子:大学時代の友人にも相談したんですけど、みんな選んだ道が違いすぎて、いまいちピンと来ませんでした。意外に私と似た境遇の人がいないんですよね。

紫乃ママ:裕子さんみたいに外から見て恵まれた境遇だと、かえって誰にも相談できないかもね。大企業はガラスの天井も厚くて、上のポジションは男性たちの集まりだから、社内に残っても肌感覚としてわくわくする未来はない。でも、弱音を吐くと周りからは「いいポジションだしお給料もいいし、何が不満なの?!」って言われちゃう。人にはわからない「恵まれている地獄」ってあると思う。

裕子:私のように新規事業ばかりやっていると会社の王道ではないから、オールドボーイズクラブにはなじめない。会社から見たら面倒な女なんでしょうね。